白糸馨月

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お題『優越感、劣等感』

 私は高校までクラスメイトから下に見られる存在だった分、大学からは誰よりも優れた存在になろうと決めた。
 雑誌を見て流行のメイクを覚え、服を買い、それが似合うようにダイエットを頑張り、髪型を変えた。
 だけど生来のコミュ障のせいか、いっこうに彼氏が出来なかった。彼氏ができるのはそろいもそろって地味でダサい奴らばかりだったし、その彼氏もダサかった。
 だから、私はかっこいい彼氏を作ろう。そう思って、イケメンが多そうなテニスサークルに入って、かっこいい人を見つけたら飲み会の場で執拗に「かっこいい」と褒めるようにした。
 そうしたら、皆なぜか私から離れていった。影で「怖い」と言われることが多くなった。自分がどうして怖がられているのか、分からなかった。
 私はただ可愛くなって、イケメンの彼氏を作って周りに「私はもう下に見られる存在じゃないのよ」と誇示したいだけなのに。
 まわりの私よりも見た目に気を遣ってないやつらが次々イケメンと付き合っていくのを見て、私は悔しさに震えた。
 それに私はサークルメンバーの中で一番テニスが下手で、いつしか皆が飲み会に行く中で私一人だけ怖い先輩と居残り練習させられるようになった。その人もイケメンではあるが体格が良く、無表情、無口で彼女がいるという話を聞いたことがない。
 ある居残り練習の時、私はつい

「どうしたら彼氏ができるんだろ。こんな練習してる暇ないのに」

 とぼそっとこぼしてしまった。そしたら、先輩からの球出しがやんだ。怖すぎて先輩の顔をいつも以上に見ることができなかった。

「こんな練習も満足にこなせないからだろ」

 その言葉はいやというほど、私の胸をえぐった。可愛くしてれば彼氏が出来るんじゃないの? 練習と彼氏できないことになんの関係があるの?
 私が思考を巡らせていると

「うちはお前が思うよりも真面目なサークルだから」
「じゃ、やめろってことですね……」
「そうは言ってない」

 思わず愛想振りまくのをやめた私に先輩は動じない。先輩はスマホを取り出すと、画像を見せてきた。そこに写っているのは高校時代の太っていた時のネクラな私だった。思わずひっ、とひきつった声が出る。

「お前と高校が同じだった奴いただろ。そいつに見せてもらった」

 たしかに同じ高校のクラスメイトも同じサークルにいた。そいつ、私を貶めようと思ってその画像を広めやがったのか。

「あのクソ女……」
「そうか? あいつ、お前のこと褒めてたが」
「はぁ? 嘘つかないでください。それにこの画像今すぐ消して、記憶からも抹消してください!」

 ポジティブな言葉は「かっこいいですね」から会話が続かないのにネガティブな言葉はやたら饒舌になる。だが、先輩はそれに動じない。

「お前が練習を真面目にやったら考えてやる。お前には努力できる才能があるからな」

 そう言って先輩が再び球出しをする。優越感にひたるはずが、ここでも私は劣等感に苛まれないといけないのか、怒りでどうにかなりそうだ。

「クソッ!」

 私は出されたボールを思い切りラケットで打ち返した。

7/14/2024, 2:46:34 AM