「好きな色」
「…紫陽花の色かしら。」
細い指を口元に当てながら彼女は答えた。
桃色の唇に透き通るような白がよく映える。
「えっ?アジサイの色?それって青?ピンク?」
僕の矢継ぎ早の質問に彼女の目は細まる。
「そんなに早く答えを言ってはつまらないじゃない。少し考えてみて。」
そう微笑んで言う彼女は、テレビで見る美人な女優さんよりも儚げで綺麗だった。
…そうはいっても、僕は彼女の好きな色を早く知りたかった。
次の日、また彼女の家を訪ねた。
「こんにちは。…あら、この袋は?」
僕が無言で渡した紙袋を彼女は受け取る。
「この前、転んだとき助けてくれたでしょ。そのとき貸してくれたハンカチ汚しちゃったから…」
「ああ、家の前で転んだときね。いいのよ、昨日ハンカチ洗って返してくれたじゃない。」
「でも、完全に綺麗にならなかったから…」
僕は居たたまれなくなって辺りを見回す。玄関だけでも豪華な家だとわかる調度品が並んでいる。匂いも甘い花の香りがする。どこの友人の家とも違う。
「母さんに新しいの渡してこいって言われて、好きな色のハンカチを…」
「だから昨日好きな色を聞いてきたのね。」
彼女は合点がいったようで、ふふっと笑った。
花のように可愛らしい笑顔。
「ありがとうございます。お母様にも伝えてね…薄ピンクの綺麗なハンカチね。」
結局、アジサイの色がわからなかったから彼女に似合いそうな色にした。
「アジサイの色じゃないかも…」
「いいのよ。この色も紫陽花にはあるから。…あなたが選んでくれた色が私の好きな色だわ。」
たぶん僕の顔は真っ赤だっただろう。
そんな僕を見て彼女はまた微笑んだ。
6/22/2022, 4:58:14 AM