舞姫

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テーマ:誰もいない教室 (一次創作)
四季いちばんの音色【6】

ゆりあと蓮央が高1のときのお話。
2人はクラスメイトじゃないので接点は無かった。

『誰もいない音楽室からピアノの音が聞こえる』
新学期から密かに流れている噂だ。怪談じみた噂なので
信じない人が多い。けれどその噂に興味津々な男子が
1人いた。
「俺があの音の正体を突き止めてやる!
 これもスターの仕事だ!」
彼は蓮央。入学した時から学年でお調子者だと言われている。それは、彼の目立ちたがり精神から来ていた。
今回もその精神から行動する。

(まずは詳しいことを知ってないか聞き込まないと)
クラスメイトはもちろん、1学年の隅々まで聞き込んだ。
一週間ほど…1人の男子が
「そういや、先輩がよくピアノの音を聴くって
 言ってたなぁ」
と言った。やっといい情報が!
「その先輩、放課後呼び出してくれないか?」
そして放課後…その先輩が言うには音は朝早い時間
に、不定期で聞こえるんだそう。
「よし、明日から張り込みだ!」

翌朝…蓮央は早くから学校に来た。
(今日で正体がわかるかも…!)   
そう思うと早足になる。音楽室のある2階に上がると、
(あっ…!ピアノの音…!)
足音をたてずに音楽へ近づき、扉の影に隠れる。
恐る恐る戸を開けて覗き込んだ。
(やっぱ、誰もいな…)
「そこに誰かいるの?」
誰かの声がして、音が止まった。
蓮央は思わずビクッとする。
中に入ると、1人の女子がピアノの側にいた。
「幽…霊…?」
「幽霊なんて、人聞き悪いわ」
ため息をついて蓮央を見つめる女子。
「もしかして、ピアノの音は…」
「そう。私が弾いていた」
女子はそう言って少し微笑んだ。
(とにかく、正体がわかったな…)
「ここ最近弾いているのか?」
「まあね。なんか無性に弾きたくなるの」
「お前、噂されてるぞ。『誰もいない音楽室から
ピアノの音が聞こえる』って」
「えっ?そうだったの?」
(まさか知らなかったのか…)
女子は窓に向かい、閉めていたカーテンを開ける。
「カーテン掛かって外からは見えないし、
 ビビった生徒がいたんでしょ」
「あぁ…確かに…」
思わず声が出た蓮央。女子がこちらに戻ってきた。
「私はゆりあ。あなたは?」
「俺は、蓮央」
「あぁ、確か学年1お調子者の男子…」
どうやらお調子者のことは知っているようだ。
「名前だけで、顔は知らなかったから…」
「そ、そうか」
苦笑いする蓮央。ゆりあは涼し気に笑って音楽室を
出ていった。

(ゆりあか…なんか不思議な雰囲気ある女子だな…)
(蓮央…お調子者過ぎてウンザリなんだけど…)
これが2人の出会い。それから仲を深めるのは
まだ先のお話。

9/7/2025, 7:25:24 AM