りくのいるか

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風に身をまかせ


最近、凄く忙しい。

母の介護で平日は病院の付き添いで車椅子の運転

週2回のデイサービスの日だけ少し絵が描けるが

土日のバイトの勉強もしなければならない。

土日のバイトは好きな仕事で嬉しいが、どうしても寝不足になり、体力的にも知力的なにもハードでクタクタになってしまう。

しかし、土日だけとは言え、自分の人生を取り戻した気がして嬉しい。

仕事中、よくすれ違う、『良い目』をした男性がいて

ニコッとしてくれる。

とても嬉しい。

部署が違うので数回しか話をした事も無く、業務連絡のみである。

このご時世なので全員マスクも制服みたいなもので素顔も見た事が無い。

愛社精神で、男女問わず、すれ違う瞬間はみんな笑顔で会釈する決まりがあるのだ

良い目をしているなぁ……目力があるなぁ……。

私はこのお仕事が大好きなので仕事中は基本、常に幸せモードである。

しかし、長時間勤務の上、おばさんなので体力的にキツくて終わり時間間際は頭がボーッとしてくる。

そんな時、『目力の君』が至近距離を通過した時、目を合わせて来た。

ご挨拶ご挨拶……ん?!

ジー……。

ツヤツヤと光る2つの真っ黒な闇がこちらを覗き込んでいる

妖しく光るブラックダイヤモンド

暗闇に様々な色彩が弾けた

原初の闇

欲望のブラックホールが私の視線を吸い込んだ

食べられる前のネズミが見る最後の猫の目つき

命が吸い取られるような挑戦的な狩人の目つき

笑顔ではあるが、獲物の血の匂いに気づいて喜んで寄って来たサメのような残酷さも漂っている

私の心の隙間から流れ続ける孤独と言う名の血の匂いを嗅ぎつけて来た魔物であろう

ゾクゾクッ!私の背筋に戦慄が走って全身の毛穴が開いた。

咄嗟に私は、ブラック企業で培った

謎の喧嘩売ります買いますの負けず魂に火がついた

そっちがその気なら、こっちはこうだ!

捕食される弱者にはならぬ!

私にできる限りの可愛い?上目遣いで嫣然と微笑んで目を逸らさず挑発的に見つめ返した

どうだ、おばさんの色目攻撃はキツかろう?

笑顔で会釈しつつ、

永遠とも思える瞬間、意味深に目線を合わせつつ去って行った。

ハァ、ハァ……手強い敵(?)だった。

相打ちだ。

人が違えばフランス映画みたいな恋愛の始まりのシーンなのだが、いかんせん、コミック系のおかまちゃんのようなおばさんの私が相手である。

ロマンチックなサメ男との

トキメキガン飛ばし合戦。

ただそれだけ。

昔、岡本太郎の『自分に毒を持て』って本を大学の生協で買って読んだのを思い出した。

日本の女はつまらない。

目が合ってもすぐそらす。フランスの女は良い、目をそらさないで見つめ返してくる。

的な事が書いてあったような気がする……。

介護で疲れきって女を捨てた生活が長かったゆえ

仕事の合間に世間の風に身を任せ、束の間、視線のアバンチュールを楽しんでしまった。

わーエマニエル夫人みたい。

自分の人生にこんな事があるなんて

マスクは夢を見せてくれるなぁ。

無論、遊ばれる気は全くない!

それ以来、ロマンチックなガンの付け合い飛ばし合いは続いているが、

楽しいからいいか。

5/14/2024, 11:37:53 PM