緋鳥

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平穏な日常


 職場の近くには比較的大きな公園がある。晴れた日は俺は職場ではなく、この公園で昼飯を取ることにしている。公園の側に美味い弁当屋があるのと、木陰の下にベンチが多いのが気に入っている。晴れた日にここで買ってきた弁当を食べるのが、忙しい業務の中のささやかな楽しみだ。

 勝手に自分の席にしているお気に入りのベンチに座る。出来立ての弁当が冷めないうちに俺は膝の上をテーブルにして弁当の蓋を開けた。

 白いご飯の上にのる黒い海苔。
 その上に主張する白身魚のフライ。卵焼きも隣にきちんといる。
 そっと控えめに盛られたひじきの煮物に高野豆腐。
 そして外せない漬物。

 完璧なのり弁だった。のり弁の種類は弁当屋によっていろいろあるだろうが俺はこののり弁が好きだった。

「いただきます」

 作ってくれた人とレジのお姉さんに感謝して、箸を動かした。白身魚のフライにかぶりつく。出来立てのフライがサクリと口の中で音を立てる。午前中から忙しかった身にはカロリーが嬉しい。
 続けて米を口に運ぼうとした時、仕事用のスマホが鳴った。反射的に手を伸ばし、通話ボタンを押す。

「俺だ」
「警部。殺人事件が起きたと連絡がありました。これから現場へ向かいます」
「わかった。俺もすぐ行く」

 ゆっくり弁当を食べる時間は無くなった。美味い弁当をお茶で流し込むようにして素早くかきこむ。ゴミを片付け、公園を走るようにして後にする。
 公園には家族連れがいた。犬の散歩中らしき中年の女性がいた。若い男女が笑いながら歩いている。子供が数人。俺の横を走り抜けて公園へと入っていた。
 楽しそうな笑い声が聞こえてくる。平穏そのものの光景。俺はこの光景を守るために、日々働いている。
 その平和が、脅かされている。

 平穏な日常を守るため、俺は職場に戻る。
 一人の警察官として、この日常を壊させはしない。

3/12/2024, 7:19:17 AM