詩歌 凪

Open App

 街

 夕日が照る。
 わたしは空を見上げて、顔を顰めた。光は、嫌い。白骨化した街の輪郭がくっきりと際立って見えるから。
 一年前の今日、わたしの街は死んだ。真っ白な光が、砂が押し寄せるように突如として建物や植物や人を飲み込んだ。遠い学校に通っていたわたしはかろうじて生き延び、そしてその日の内逃げるように街を出た。いや、白骨化した街は到底住めないし、いつまたあの光に襲われるとも知れない街からなど、逃げるほかなかったろう。
 とまあ、これがわたしの現状だ。
 ここからがわたしの独白だ。
 結論から言おう。わたしは恐ろしくも、あの光を学校の窓から見て美しいと思ってしまったのだ。家族や友人を飲み込んだ光に、わたしは見惚れてしまったのだ。街が骸骨になる様を見ながら驚嘆の溜息をついてしまったのだ。
 わたしは恐ろしかった。おぞましかった。一瞬、あの光に飲まれて骨になってもいいと思った自分から逃げるしかないと思った。
 きっと、あの時わたしと同じように街にいなかった住民は悲しみに暮れただろう。光を恨んだだろう。
 光に見惚れていたわたしは、彼らとは会えない。だから逃げた。わたしは、自分が途方もない異端者に思えたのだ。
 そして今日わたしは戻ってきた。この街に。わたしの街に。
 光は美しかったけれど、やっぱり、とりどりの色に溢れて回る世界の方が、ずっと美しかったのだろう。それでもあの白く輝く光は、わたしの脳裏に焼き付いて離れない。
 わたしはあの日、光と共に何かを喪った。己の中の何かを。
 一つだけ言える。
 わたしの愛した街は、もうどこにもない。
 

6/12/2024, 2:49:14 AM