「ねえパパ、これはなんていうお花?」
これは、きれいなお花が大好きでタンポポの名前をまだ知らない君。
「ねえママ? これ、ごはんに付いてるの、これ、カレーパンマンの色?」
これは、ママが作ったカレーのおいしさをまだ知らない君。
「ねえパパ、あの白いのはなんで空を飛んでいるの?」
これは幼い頃、空をただよう雲をまだ知らない君。
マナは目に付くものをなんでも知りたがる子どもだった。マナが知らないことは、パパとママがなんでも教えてあげた。
いろんなものに興味を持ってほしくて、動物園、水族館、遊園地も、いろんなところに遊びに行ったね。でも君は、近所の公園にいるときだって変わらず笑顔で遊んでいた。
「ねえパパ? きょうはママのおっきい写真がいっぱいお花といっしょにあったけど、ママ楽しかったかな? ママはいつ帰ってくるの? 早くママに会いたい」
その日僕は初めて、マナの質問に答えることができなかった。この世界からいなくなってしまったママが、もう家に帰ってこないことを、まだ知らない君に……、僕はなんて声をかけたらいいんだろう。
「パパ、なんで泣いているの?」
ごめんね、君に伝えるべき言葉がわからなくて、僕は泣くことしかできないんだ。
「パパにね、泣かないでいい方法を、マナが教えてあげるね」
突然の君の言葉に、僕は情けない声を出すことしかできなかった。
「え?」
「あのね、いつも眠るときにね、ママがいないと悲しいんだけどね、目をつむるとね、ママがいるんだよ。目をつむるとママに会えるって、ママが教えてくれたんだよ」
僕はその言葉を聞いたとき、泣きやまなきゃいけないって必死で考えながら、涙を止めることができなかった。
君から何かを教えてもらうのはその時が初めてだったかもしれない。自分の娘がこんなにも成長していたことを、まだ何も知らなかったのは、僕の方だった。
そうだねマナ。二人とも知らないことはまだまだたくさんある。これから二人で知っていこう。ママがいない世界の生き方を……。
1/31/2025, 12:48:26 AM