sleeping_min

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【声が聞こえる】

「ママー! 置いてかないでよー!」
 あたしはママとはぐれてひとり、神社のはしっこの灯籠の陰で泣いていたの。
 今日は神社のお祭りで、境内はどこもかしこも人間でいっぱい。わいわいガヤガヤさわがしくて、あたしの声なんて誰の耳にも届きやしない。
 ……と思ってたんだけど。
「どうしたの?」
 急に後ろから声がかかって、思わず飛びはねちゃった。
「ごめん、びっくりさせちゃったね。泣き声が聞こえたから、気になって」
 浴衣姿の少年が、あたしの前にしゃがみこんだの。少年といっても、あたしよりもずっと大きい子。
「迷子なの。あたしのママ、見なかった?」
「君のお母さん? ああ、そういえば……」
 少年はすっと指を立てて、空を指したの。
「ちょっと前に、あっちへ昇っていったよ」
「やっぱり……! ママはあたしを置いていっちゃったんだ!」
 あたしは少年の言葉の意味を知って、これまで以上にわんわん泣いた。あたし、これから一生、ママとはぐれたまんまなんだ。ずっと寂しい気持ちをかかえて、生きてかなくちゃいけないんだ。
「彼女、以前から体が弱っていたからね。最期の姿を君に見せたくなかったんだろうね」
 少年はわけ知り顔で、あたしの頭をかってに撫でてる。その手のひらがあんまりにもあたたかいから、ますます泣けてきちゃう。
 ひとしきり泣いて泣いて疲れてきたころ、あたしはふと、あることに気づいたの。
「そういえばあなた、あたしの言葉がわかるんだね」
「神様だからね」
 少年がすっくりと立ち上がった。口元に人差し指を立てて、ふっと笑う。
「神様だから、こういうこともできるよ」
 つぎの瞬間、少年の姿は消えていた。あたしは目をぱちくりさせて、彼が立っていた空間を凝視したの。
「ねぇ、こっち! 声が聞こえたの!」
 ふいに、すごく近いところから人間の子供の声が聞こえて、あたしはまた飛びあがった。
「ほら、やっぱり!」
 さっきの少年よりもずっと小さな女の子が、あたしを指して、背後のでっかい人間へと振り返る。
「いたでしょ、猫ちゃん!」
「まだ小さい子だね。親とはぐれたのかな?」
「おばちゃん、この子と一緒に帰りたい!」
「まあ、迷子の子猫なら、放っておくわけにもいかないしなぁ……」
 あれよあれよというまに、あたしは女の子の腕に抱えられていたの。腕の中はあんまりにもあたたかくて、あたしはいつのまにか眠っちゃったみたい。うとうとした耳に、さっきの少年の声が聞こえた気がしたの。
「縁を結んでおいたよ。君たちがもう二度と、寂しい思いをしないようにね」


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お久しぶりです。
更新が途絶えてもぽつぽつ♡をいただいているようで、ありがとうございます。
♡への感謝を原動力に、久しぶりに書きました。
こういうNNN(ねこねこネットワーク)があってもいおな、と思います。

9/23/2023, 2:00:11 AM