pipe.

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 いつか別れた女性が言ってた「涙の川」
流した涙は身を濡らし地を固める
たまり溜まって地を崩し少しずつ流れ始める
時間が経ってそれは川となり緩やかに時に激しく流れ
やがて古い涙の行方は遠い思い出となる
私たちは「涙の川」を泳ぎ生きていて時に流され時に溺れる
過去に引っ張られ流されれば地上は遠のき
泳ぐのを諦めれば川底に沈むの
そうなれば陸に上がるのは難しくて
私たちが人でなく魚であれば
過去も現在も行き来し未来へも自由に泳いでいけるのに
鳥であればそもそも涙は流せど空を飛んでいられたのに
辛いことも嬉しいこともあるけれど
どちらかというと辛いが多いでしょ
そんな中を泳ぎ続けるのは酷なのよね
その過程を経験と言い最期に素晴らしい人生だったなんて
それを美学だなんて私は好きじゃないわ
嫌な出来事は起きて欲しくないし起きたらすぐ逃げたい
楽ばかりして幸せだけを感じて生きてたいのよ

そんな彼女が好きだった
無論、そんな思想は現実に通用するものではないが
そもそも現代は遙か昔からの血と汗が築いた歴史があり
その恩恵を受けてる現代人がそんな風に思ってるなど
先人たちが聞いたら落胆するに違いはない
贅沢な話だが人らしいなとも思う
そう言いながら彼女も泳いでいる
時に流され時には溺れ
その中で泳ぎ方を少し覚えたようだ
彼女が疲れて流されそうになったら溺れそうになったら
私は彼女を助ける存在になろうと思った
彼女が安心して泳いでいけるように見守っていよう

今、彼女のそばに私はいない
私は私自身を過信していたのだ
恥ずかしい話だが私は「涙の川」に流されたみたいだ
必死に彼女のそばにいようと泳いだが遂に力尽きた
沈みゆくなか最後まで彼女を見守ったが
最期にみたのは誰かが地上から差し伸べた手を掴む彼女
不甲斐ない私は良かったと思った
1つ気になるのは彼女はふと振り返り
この「涙の川」を綺麗だと思ってくれているだろうかと
川の底で知るよしも無く流される心配のない
この場所で生きている

3/30/2025, 1:50:46 AM