たぬたぬちゃがま

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「女心は秋の空!」
「いきなりなんだ。」
場所は公園。彼女は鉄棒で前周りをグルンとしたと思うと、着地をせずに叫んだ。
「その心は!」
「聞けよ。女心は秋空みたいに変わりやすいってことだろ。」
彼女はもう一度グルンとまわり、もう一度叫んだ。
「レイブンクローに10点!!」
「昨日の金ローそんなに楽しかったのか?」
グルンと回り、笑顔で答える。
「賢者の石は名作!!」
「うんうん、よかったな。」
やっと会話が成り立った。独特な世界観を持つこいつと会話するには、なかなか苦労する。こんなやつでも友達は存在するらしく、さぞ不思議ちゃん同士なんだろうと思ったら会話を普通に行なっていた。なぜ。
「来週はミートボールスパゲッティ!」
「序盤すぎるだろ。せめて『あなたの心です』くらい言え。」
グルンとまわり、飽きたらしく離れて手をふーふーと吐きかける。こいつは小さい頃からこんな調子だから、友達の前での姿は素じゃないはずだ。でもなんでこんなに進まないんだろう。
恋というハートをいくら入れても、瓶の中は空っぽのままな気がする。
「私はクラリスじゃなくて不二子ちゃんになりたい。」
グラマラスとは言い難い体なのに?と思うが黙っておく。余計なことは言わないに限る。
「その心は?」
「奪われるんじゃなくて、奪いたいから。」
彼がずっと追いかけているのはお姫様じゃないでしょ?
そう言って笑う彼女に、俺はあのアニメの警部の台詞を思い出した。


【空恋】

7/7/2025, 8:38:27 AM