学生時代を過ごした街はいわゆる豪雪地帯で、私が生まれてはじめて積雪を見た場所だった。
海に面した街は一年を通して曇りが多く、私のバックパックには常に折りたたみ傘が入れっ放しだった。気温が下がると雨は雪になる。そんな当たり前のことに、冬がくるたび私は感動した。
雪の降り始めはしんとしている。世界が耳を澄ますような静謐のあとに、よく雷が鳴った。真っ白な地面が、軒先が、標識や街灯が、紫に染まる。
わざわざ遠回りをして、まっさらな白に足跡をつけるのが好きだった。なにがおもしろいの? と嫌そうに言った君もまるごと。
『雪の静寂』
12/18/2025, 9:35:00 AM