山にある神社の鳥居まで階段を登ると、眼下には住んでいる町並みが見える。
いつも行っている本屋やスポーツショップがジオラマのように小さい。
遠くにたまに出かけるショッピングセンターのピンクの看板が見える。
「おれ、ここに住んでるんだなぁ」
歩いている時は周りが大きく見えて、"自分"を感じることが出来るが、一度視点を変えてみると、ただ街(せかい)の一部でしかないことを知った。
それでも嫌な気分ではなくて、その小さな一部が合わさってこの景色が出来ているのだと思うと、自分もその景色を構築しているのだとどこか誇らしくも感じた。
遠くの高速道路に小さな車が走っていくのが見える。
もうすぐ6時。きっとあの中のどれかに父が乗っている車がある。
「父ちゃんが帰ってくる前に風呂沸かしとこ!」
階段に腰掛けていた尻の砂をはたき、元気よく階段を駆け下りた。
/『街』
「優しくて、面白くて、包容力があって、
私のこと好きでいてくれる。
家事もできて、掃除もマメだし、料理も上手なの。
でも神経質って感じじゃなくて、やり方とか押し付けないの。
私のこと大好きで、
離れたくないって言ってるけど束縛はしなくて、
私のこともほどほどに放置してくれて、
でも私が誰かとごはん行ったりすると嫉妬したりして、
でも束縛はしないの。そこまではないの。
それでね、家に帰ったらぎゅーってハグしてくれるの。
夜だって優しいよ。
それでね、それでね――――」
「まだ続くの?」
好きな人の相談をされた私は、げんなりとして言った。
「執事雇うか、アンドロイドでも作れば?」
/5/20『理想のあなた』
それは好きな人ではなく、好きなタイプの話でしょう?
6/12/2023, 9:35:56 AM