千明@低浮上

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「はい、これ」
「なんです?」
「ほら、この間片方無くしたって言ってたし、私の買うついでに買ったの」
「.....ついでにこんな良いもの貰えませんよ」
「いーのいーの。仕事忙しくてお金使う暇も無いんだから。それにいつも残業手伝ってくれるお礼だよ」

そう言うと彼は何か言いたそうにしていたが渋々受け取った。
ついで、だなんて我ながら無理のある理由。
ついでなんかじゃない。ネットで調べて、販売店には足を運んで、手触りを確認したり暖かさや付け心地を店員に聞いて、悩みに悩んで彼のために買った。


彼が貰ってくれた事で緊張に固まっていた体が漸くほぐれて力が抜けた。ヘナヘナとソファーに腰掛けると、私の腰支えるようにしながら彼も隣に座った。
ん。

「おっと、大丈夫ですか?」
「あ、うん、ごめん。あは、少し力が抜けて。昨日寝不足だったからかな..」

恥ずかしくて両手で顔を覆った私の背中をポンポンとあやすように彼が叩き出した。そしてふふッと笑った。

「ついでだなんて嘘ついて、手渡すのにもこんなになるぐらい緊張して」
「え?」
「あんまり可愛い事しないで下さい」

な、なんでバレたんだ...
顔を覆った指の間から彼を覗き見ると彼はへラリと笑った。

「手袋をプレゼントする意味は『私を捕まえて』ですよね」
「.....っ、」

そう言うと私の両腕を取って手を開かせた。彼の綺麗な双眼が私を射抜く。

「捕まえていいですか?」



#手ぶくろ

12/27/2022, 10:10:40 PM