くじらもち

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悠は昔から怖がりだ。ちょっと部屋が暗いくらいで

大袈裟に怯えたり、何も無いところを見て悲鳴を上

げたりする。俺はそんな悠のこと、内心少しバカに

してたんだ。あの時までは。中学1年生の夏、クラ

スのやつらと肝試しに行く事になった。なんでそん

な話になったかって言うと、普段の遊びに飽きてち

ょっと変わったことがしたくなったから。まあこん

なしっかりした理由なんてその時は考えていなかっ

たかもしれない。ただ、夏と言えば肝試しじゃん?

みたいな軽いノリで決まったような気もする。近場

の肝試しスポットと言えば、近所の裏山にあるあま

り使われていないトンネルくらいしかなかったので

行くところは元々決まっていたようなものだろう。

悠はその時話をよく聞いておらず、周りのみんなも

多分言ったら着いてこないから言わないでおこうみ

たいな流れで、その場で悠だけが話の流れについて

行けてなかったように思える。習い事とかで来れな

かったやつを除いて、9人がトンネルに集まった。

もちろん俺と悠も含まれてる。トンネルは先が見え

ないくらい長くて真っ暗だった。トンネルに着いた

時悠は小刻みに震えていてもう泣く寸前だった。俺

はいつもの怖がりかなって簡単に思ってた。「大丈

夫?」って俺が聞くと悠は「大丈夫じゃない!!」

っていつも出さないくらいの大声を出して「なんて

ところに連れて来てくれたんだよ!!真っ黒で目玉

のいっぱい付いたやつがこっちをみてる!!」なん

て言うからトンネルの奥の方をみてみたら、先が長

すぎて見えないから黒いと思ってたトンネルの黒い

部分に目玉が付いてるのを見てしまった。さっきま

では無かった、いや今まで見ない振りをしていた、

わるいものがこの時から、見えるようになってしま

ったのだ。俺は怖がりになった。それこそ悠をバカ

に出来ないくらいにおかしな子になっただろう。何

も無いところで怯えたり、ちょっとの暗闇に震えた

り、だってみえてるんだ。こわくてわるいものが。

【怖がり】

3/16/2023, 11:22:40 AM