8 今日の心模様
ハートの形が入ってたら、今日のあなたの心模様はハッピー!
という6個いりのアイスをルームメイトとワリカンで買ったら、ハート形どころか一個足りなくて5個しか入ってなかった。
不良品にしてもあんまりだ。ハートじゃなくてもいいからせめて普通のをいれてほしい。しかも奇数になってしまったので、瀬菜ちゃんとわけっこできない。うちの高校の学生寮は私物持ち込みのルールが厳しくて、スペースの限られた冷凍庫に入れるアイスは貴重品なのに。
「いいよ、私はふたつでいいから。愛里が3つ食べなよ」
瀬菜ちゃんはそういってくれた。彼女は自分のベッドを散らかすし、生活音も大きいし、髪もちゃんと乾かさないし、私とはあわない部分が多々ある。だけどこういう、ささやかだけど大事な部分でとても優しい。だから、小さな部屋で二人、ちゃんと暮らせる。
「共同生活ってこういう積み重ねが大事なんだよね」
「どうしたの急に。アイスくらいでおおげさ」
「食べ物を分けるときにはね、隠された底意地や性根が出るんだよ。おばあちゃんが言ってた」
「なんかビミョーに怖いんだけど……」
五個いりのアイスを、消灯までだらだらと喋りながら食べた。心模様がハッピーになるハートのアイスは入ってなかったけど、まずまずの夜だった。
4/23/2023, 11:28:12 AM