――ぐるぐるまわる。
朝から嫌な予感はあった。
なんとなく、起き上がるのが億劫だとか。湿度を調整する魔法具を設置しているのに、乾燥で喉が痛いとか。いつも飲んでいるコーヒーを淹れる気にならなかったとか。鏡で見た自分の灰色の髪が跳ねているのを直さずに家を出たとか。
昼までは耐えられた。
どうしても外せない会議に出席して、じわじわと思考に靄をかかっていくような頭痛を振り払いながら資料に目を通して。昼食を適当なゼリーで済ませて、どれだけ厚着をしても震える体に気づかないふりをして。
夕方が、限界だった。
座っているだけでインク壺に顔面から突っ込みそうになった。何度か重要な書類を破きかけた。立ち上がると膝から崩れ落ちそうになった。仕事にならなかった。
どうにか医務室に行こうと廊下に出て、手すりにしがみつきながら階段を下りて、目当ての場所の表示が見えたところで――世界がさかさまになった。
***
あたたかな焦茶色が見える。次いで柔らかい橙。くらくらと揺れる視界で、見慣れた二色が動いている。
「……お。起きた?」
(逆さま)
加筆します
12/6/2024, 12:50:01 PM