薄墨

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前の人、ポケットが裏返しだ。
食券機の前で財布片手に、にらめっこしている人のジーパンのポケットは、裏地の白をあらわにしている。

らーめん。
日本の、今の時代のラーメンは美味しいらしい。
インスタント麺はよく食べていた。気軽に作れるし、電気ポットがあれば火を使わなくてもできるから。
それに日持ちするし、あんまりお金もかからない。

小学生の時の夕ご飯には、よくインスタントラーメンを食べたものだった。

うちは贅沢するような余裕はなかったし、私もママのためになるべくお家にいたかったから、お店に食べに行くラーメンには縁がなかった…というのを、師匠の家にお邪魔した時に言ったことがあった。

「もったいない!いつか食べに行こう!」
あの時、師匠と私の親友であり相棒の彼女は、口を揃えてこう言った。

あれから何ヶ月が経っただろうか。
今、私は一人でラーメン屋の列に並んでいる。

私の相棒は、未来から来たと言った。
彼女はある日、急にいなくなってしまった。
平和になったいつものある日、学校から帰ってきたら、彼女はもういなかった。
部屋の鍵が開いていて、彼女のただいまはいつまで経っても聞こえなかった。

探しようがなかった。だって彼女は未来人なんだもの。
警察も探偵も、役には立たない。
存在が立証できない存在なんだもの。

師匠にも相談した。
その師匠から来ていた連絡が途絶えて、今日で一週間。
きっと今は忙しいのだと思う。師匠は雑で、忙しくなると周りが見えなくなる人だから。

親友で、相棒で、家族だった彼女がいなくなって、見つからないまま今日が来た。
今日は3人でラーメンを食べに行く約束の日だった。
でも、2人とも帰ってこなかった。

だから私は、今、ラーメン屋の前に一人で並んでいる。

餃子、食べたいなあ…でもラーメンも食べるのに、一人で食べ切れるのかなあ……
前の人のポケットの裏地を見ながら、そんなことを考える。考えながら、ちょっと泣けてくる。

何ヶ月前かに決まった時、今日は満たされた楽しい一日になるはずだったのに。
思い出も感情も記憶も、何もかも裏返したみたいだ。

スカスカで悲しい。
ラーメンの美味しそうな匂いが、目に沁みた。

8/22/2024, 12:58:44 PM