うどん

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仕事の営業で疲れた時、つい顔を見に行ってしまう。
彼の目を見て話すだけで、彼がこちらを見て笑ってくれるだけで、それだけで疲れが取れていくような気がする。

仕事に理由をつけて、部署も違う彼のところへ通う。
自分で自分がおかしい。

「また来たんです?なんかありましたっけ?」

声色はいつも通り明るいが、目はなかなかに、こいつまた来た、という感情を露わにしながらも対応してくれる。

それが面白くてつい会いに来てしまう。

「ごめんな、ちょっと確認しておきたいことがあって」

自分にマゾっ気はあっただろうか、そんなことが頭の片隅に浮かぶが、彼と話すうちにすっかりご機嫌になってしまった。
我ながら単純だ。

「今日仕事終わりに飲みにでも行かない?」

「あー…いや、今日はちょっと…」

ご機嫌の勢いで誘ってみるも、珍しく歯切れが悪い彼に内心冷んやりしながら「彼女と約束?」と軽く聞くと「いや、ダチと」と返ってきて、自分の心があからさまにホッとしたのがわかった。


終業後、会社を出ると少し先のベンチに彼がいた。思わずまた声を掛けようとしたが、その瞬間、彼の目が輝いたように見えた。
その視線の先には、190近い身長の、えらく見目の良い男がいた。

「おつかれさん。待たせてもうた?」

「いや、俺も今終わって出てきたとこやから平気」

「ほな帰ろか」


ダチって言ってたけど、アレは完全に恋人に対する目じゃないか。
当たり前だが、自分は彼にあんな目を向けてもらったことなどカケラもない。


その場で立ちすくむ俺に、彼はもちろん気づくことなく男と歩き出す。瞬間、男が鋭い視線で一瞥してきた。


(シタゴコロもお見通しってことか…)


末恐ろしい男を相手にしてるんだな、と知らず詰めていた息を吐いた。





【お題:君の目を見つめると】

4/6/2024, 11:38:49 AM