"どうして"
「みゃあ」
「……」
居室の扉を開けた瞬間飛び込んできた光景に絶句していた。
買い出しの後、買ってきた物を仕舞って、居室を出て診察室でカルテ整理と備品や消耗品のチェックをして、ハナの様子を見に居室の扉を開けて今に至る。
──どうして。
「どうやったらそうなる……」
居室を出る前、空になったビニール袋を畳もうとしたらじゃれて遊び始めて、返してくれる気配が無かったし、ビニール袋を畳んで仕舞ったら業務に戻ろうと思っていたので丁度いいと思ってそのままにしていた。
俺を絶句させた光景。ハナがスーパーのビニール袋の取っ手を前足と後ろ足にそれぞれ通した状態で俺のベッドの上に乗っている。
ベッドの上から軽やかに床に着地する。落下時、背中のビニール袋が空気を取り込んで膨らんだ。
──気球……。
呑気にそんな言葉を頭に浮べる。トコトコとこちらに歩いてくるハナに、はっとして慌ててハナを抱き上げて椅子に腰掛けて膝に乗せる。
「じっとしてろ」
「みぃ」
お腹を天井に向けさせて、ゆっくりとビニール袋の取っ手を外していく。じっとしてろと言ったのに、俺の手にじゃれついて邪魔をしてくる。
「じっとしてろっての。めっ」
ハナの頭を人差し指で軽く小突く。反省しているのか大人しくなったので作業を再開する。やはりまだまだ遊びたい盛りだ。
そっとハナの身体を押さえながら、ビニール袋を外すのに成功した。ハナを床に下ろすとビニール袋をすぐに畳んで台所に向かい、ビニール袋を入れている箱の中に入れる。
「みゃあん」
ハナがついてきて足元に来て一声鳴く。折角のおもちゃを取られてご機嫌斜めのようだ。
だがこれは危険だ。窒素や首が締まる可能性だってある。
「これは危険なの。お前のおもちゃじゃねぇ」
ふい、と顔を逸らして背を向けて台所を出て居室の方に歩いていく。尻尾がぶんぶんと早い速度で揺れていた。
怒らせてしまった。今行っても、人間と同じで何をしても効果は無い事は知っている。それに機嫌を直させようにも、まだやる事が残っている。
仕方ない、と診察室に戻って業務の続きに取り掛かった。
1/14/2024, 11:37:26 AM