はじめてその人を見た時―――僕は時が止まる様な錯覚を覚えた。
次いでその美しさに目を奪われ⋯⋯ここが戦場である事を忘れさせる。その戦い方はまるで踊るように優雅で、けれども確実に相手を屠る一撃をあたえていく。
それが、僕と立浪 雨凪(たつなみ あまな)との出会いだった。
僕達の住む世界にはある言い伝えがある。
1000年前に世界を混沌へと貶めようとした悪い神様を、御使い様と六花の魔女が封印したと言う昔話。
小さい頃に誰もが寝物語に語られた有名なものだった。
誰かが作った迷信だと誰もが思っていたし、それを疑いもしなかった。それなのに、その1000年前の邪神は今⋯⋯一部の馬鹿の悪ふざけによって目覚めようとしている。それを食い止めるための戦いに、今僕達は身を投じでいた。
一進一退の攻防ではあったが、後から止め処なく沸いてくる魔物達に僕らは少しずつおされ始めていた。彼等は昼夜問わず進行してくるため、僕達人類の兵士達は休む間もなく、日に日に疲弊していくばかりだ。
中には気が触れてしまう者も少なくは無かった。
そんな中である噂が広がったのだ。それは東方に生まれた魔女様の噂。
曰く、その魔女は戦線に降り立つと舞うように戦い、魔物達を次々と屠っていくと言う。
その姿はさながら蝶のようだと言われていた。
その人が今、僕達のピンチに駆け付け⋯⋯噂通りの美しさで戦場を舞っている。
その剣閃には雷鳴が轟き、その一突きは焔の咆哮。彼女がひらりと躱す度、舞い散る氷晶は敵を氷漬けにしていく。
そのどれもが美しく、また魔物達にとっては何れ程恐ろしいものなのか、計り知れないものだった。
漆黒の黒髪を靡かせて魔物達をどんどん倒していくその姿は、僕には蝶ではなく女神の様に映っていた。
血湧き肉躍る凄惨な戦場に舞い踊る一輪の花。その花は凛々しくも儚げで⋯⋯しかし、その小さな体で人類(ぼくたち)の未来を背負い―――今日も戦場に舞うのだった。
2/24/2025, 2:37:55 PM