ミミッキュ

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"これからも、ずっと"

 居室に入ると、「ふぅ」と一息吐く。
「帰ってきましたよー」
 ベッドの上に、そっとキャリーケースを置いて蓋を開ける。
「みゃあ」
 ぴょこ、と顔を出して返事をした。
「お疲れ様。よく頑張ったな」
 そう言っておやつを手に取って一粒差し出すと、また「みゃあ」と鳴いた。

 今日はハナの避妊手術の日だった。手術予定日を決めた時にも伝えたが、開院前に病院に連れて行き、昼休憩の時迎えに行くと伝えてハナを預けた。
 獣医に預けて行く時、「みゃおーん、みゃおーん」と鳴き続けてきて後ろ髪を引かれる思いだった。多分『いやー!』と人間の子どものように駄々を捏ねていたんだと思う。
 だから昼休憩に入ってすぐ、早足で迎えに行った。
 迎えに行くと、──獣医曰く三十分程前に麻酔から目覚めたはずなのに──キャリーケースの中で気持ち良さそうに眠っていて、拍子抜けして膝から崩れ落ちそうになった。
 獣医が「こりゃ大物になりそうだ」とクスクス笑っていた。
──こんな感じの性格してる人間が周りに数人いるってのに、勘弁してくれ。似ないでくれ。
 気持ち良さそうに寝続けているハナを見下ろしながら思った。

 差し出したおやつを、ぱくり、と食べて美味しそうに咀嚼する。
 嚥下したのを見て、二粒目を出す。
 口を開いたので放り込んで、ゆっくり咀嚼。
 飲み込んだのを見て、三粒目を出して、ハナの口に入れる。
 手術を頑張った労いと、今日は運動はできないので、運動後にあげているのと同じ三粒。
「みゃあん」
 鳴きながら首を伸ばして、俺の顔に頬擦りする。驚いて「うお」と声を漏らすと、今度は口角を舐めてきて「やめろ」とくぐもった笑いが混じった声を漏らす。
 そっと引き離し、優しく頭を撫でる。
「……本当にお疲れ様」
 喉を鳴らす。手を離すと身体を丸くして、また寝始めた。
「ゆっくりお眠り」
 椅子の背もたれにかけていたストールをハナの身体の上にかけて、居室を出て扉を閉める。閉める直前、眠るハナに、そっと笑いかけた。
「俺も頑張らないとな」
 少し伸びをして、「まずは昼飯食わなきゃ」と昼食を食べに戻った。

4/8/2024, 12:30:19 PM