よあけ。

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:泣かないよ

泣かないよ、泣かないから
弱音も、涙も、暴力も、ちゃんと受け入れるから

独りぼっちは、寂しいよね
だから、理解者になりたかった

だって、あたなの寂しさが好きだった
あの夜、二人で、孤独だった

あなたと孤独になりたかった

独りぼっちは、寂しいよね
だから、あの夜を再生していたい

泣かないから

足りなかったこと、今なら、分かってるから
だから、どうか い ま さ ら


■■


何かに苛ついたような、怒ったような、焦燥感に駆られたようなあなたは、冷蔵庫から大量の缶ビールを持ち出してきて机に並べる。1本、2本、3本、4本、5本、どんどんと開けて胃に流し込んでいく。

奥にある新しい缶ビールを手に取って、他の空き缶を倒しながら手前に引きずる。空き缶がカラカラ机の下に落ちることなんて気にもせず、カシュッと軽快な音を鳴らして、あなたは楽しそうに笑うのだ。6本、7本、8本、どんどん開けて、飲んで。「あれがしたい」「これが楽しみ」「将来は――――」。

そうやって楽しそうに話したかと思えば、途端に泣きだしてしまう。「将来なんてない」「これからなんて」「逃げたい」「どうして」「生きてる意味なんて」「死んでしまいたい」。

わんわん泣いて、泣いて、テッシュを撒き散らしながら泣いて、泣いて、そうして横たわる。そのまま眠ってしまって、けれどずっとうなされている。

そんなあなたの姿を見ても泣かなかった。泣いても役立たずにしかならない。泣かなくとも役立たずなのに、泣いたら役立たず以下だ。どうあがいてもあなたの役に立てないなら静かにしておくのが一番だと、そう思っていた。ずっと。

あなたに何と声を掛けただろうか。背中を擦ってあげたことはあっただろうか。ティッシュを渡したことは?コップに水を注ぐのが正しかったのだろうか。抱きしめたことは?「味方だよ」と伝えたことはあるだろうか。話を聞いて頷いたことは?

ない。

少しはやっていたのかもしれない。話を聞いて、分かるよなんて言って、側にいたつもりで。声を掛けようとして「大丈夫だから気にしないで」と言うのを真に受けて、静かにしておくのが一番だなんて、そんなの保身でしかない。それが一番だなんてそんなわけなかったのに。やったつもりだっただけだ。だって実際あの人はいなくなった。それが何よりの証明。

今更泣いたってもう遅い。だから、泣かない。泣いたって取り戻せない。無意味だ、無駄だ。泣かない、泣かない、泣かないよ。泣かないから、迷惑かけないから、迷惑、違うか、あなたの望むこと出来るようになるから、だから、だから。だから?あの人はもうここに帰ってこない。

あなたの孤独はどれほど深く暗かったのだろう。気づかなかった、知らなかった。無知は罪だ。あなたを知らなかった。深い穴に落ちていく感覚がする。あなたはもっとずっと深く落ちていく感覚がしていたのだろうか。砂と鉄の味がする。あなたも苦い味が広がっていたのだろうか。あなたも、この恐怖と虚無の狭間にいたのか。

ティッシュをそのへんに撒き散らかして、貰った薬もその辺に放ったらかして、シャッターもカーテンも閉め切って、ただ布団に潜る。昔の記憶を再生している。酒を飲めるようになったらあなたと同じように缶ビールを転がして、アルコール依存症になったりするのかな、なんて夢想している。あなたと同じ道を歩めているなら、少し、報われるような気がする。だって今度こそ、あなたと孤独になれるのだから。

3/17/2024, 6:51:27 PM