かたいなか

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「今日は、キラキラがいっぱいだ」
ひょんなことから知り合った、非科学的で二足歩行の意思疎通可能な子狐。
初めて会ったのは数日前。餅を売っていると言い、このご時世誰も買ってくれず、家のドアすら開けてくれないと、コンコン嘆いていた。
私が生まれて初めての客だという。

「このまえは、ノグチサンだった。今日のは、ノグチサンよりキラキラしてて、キレイ」
試食に渡された草餅の味が、何故か心にしみて、つい2000円分購入してしまったのが、良かったのか、悪かったのか。
「おとくいさん、ありがと。おとくいさんにも、ウカノミタマのオオカミサマが、何か良いこと授けてくださいますように」
数日経過した今日小さなカゴいっぱいに餅を入れて、またアパートに来た。
「おとくいさんこんばんは」とぺっこり頭を下げて。

「500円玉1枚と、100円玉3枚。800円だ」
金銭的価値を、理解できているのか、いないのか。
前回より少ない金額であることを強調して、代金と引き換えに餅の包みを手渡す子狐に、伝えた筈だった。
「前回の半分も買ってないが。良いのか」

「いいの!」
コンコンコン。子狐はそれでも嬉しいらしい。
「キラキラ、ととさんとかかさんに、あげるの!キレイだから、ととさんもかかさんも、よろこぶの」
どれだけの量、どれだけの額を売ったかは、ハナから気にしていなかったらしい。
「おとくいさん、また、ごひーきに、ごひーきに」
小さな手をぶんぶん振り、キツネノチョウチンの明かりを担ぎ直し、幸福至極な笑顔を咲かせて、子狐はぴょこぴょこ帰っていった。

「喜ぶから、キラキラを父さんと母さんに、か」
さっそくひとつ包みを開けて、あんころ餅をかじる。
「……久しぶりに茶でも淹れるかな」
気のせいか餅は、優しく、懐しく、心の毒を抜く魔法でもかかっているような味がした。

3/8/2023, 10:45:35 AM