記憶喪失の少女と暮らすようになって1週間。彼女の手がかりはないかと、毎日彼女と出会った浜辺を歩いていた。3日ほど前に拾ったキャンドルに、彼女は懐かしいと言ったから、他にも何かあるといいなという希望を抱いて。
「今日も散歩かい、暇なんか。」
浜辺掃除をする、近くの宿屋の主人だ。
「やー、そういうわけじゃないが、ちょっと探し物をね。」
「何を探してるんだい?」
「…珍しいもの…?」
「なんだそりゃ。」
「あはは…。」
訝しげな主人に、おれは空笑いする。
「これは違うか?さっき拾ったんだ。」
そう言ってポケットから出されたものは、ピンクの真珠のような石だった。真珠ほどきれいな球ではなく、五角形に見えなくもない。何をかたどっているのかわからないが、それは、目を奪われるほど美しかった。
「…。」
「見惚れすぎだろ、ビー玉か何かだろうが。」
「だとしても、かなり丁寧に磨いていないとこうはならんだろう。それにビー玉なんて比べ物にならないと思うぞ。」
「まじかよ、こんな玉が?それじゃ、よっぽど大切なものなんだろうな。落としちまったなんて、かわいそうに。」
「主人、これ譲ってくれないか?もしかしたら、おれが探してるもののひとつかもしれない。」
あの少女のものではないか。彼女が何者なのかの手がかりになるのでは。
「お前のなのか?」
「いや、持ち主に心当たりがある。違ったら返すから、頼む。」
「まぁ、おれのじゃないから構わないが、そうだな、違ったら返してくれ、しばらくは宿で保管するからな。」
主人はあっさりとそのピンクの石を渡してくれた。
家に帰ると、少女がニコニコと、今日は何を拾ってきたの、と聞いてきた。
「これ、見覚えあるか?」
おれは先ほど手に入れた石を見せる。
「…。」
彼女の目は釘付けになっている。
「やるよ。っていうか、お前のだろう?」
彼女は大切そうに石を受け取った。
「わかんない。でも、なんか、安心する。」
「そんなに磨いてあるんだ、宝物か何かだろう。もうなくすんじゃねーぞ。」
「うん。」
彼女は何か思い出した様子はなかった。何故その石が宝物なのかはわからない。だが、そんなことは今はどうでもいい。今のおれにとっては、記憶喪失で胸の内に何を思っているかわからない彼女のはにかんだ笑顔の方が宝物だ。
11/21/2024, 8:24:09 AM