ガラス張りの檻の向こうには、青空が見えている。
虎やライオンがいる、ここ猛獣コーナーはこの動物園の人気スポットで、平日でも人が絶えない。
まぁ、オレには平日も休日も無いのだが。
「かわいい〜」
組んだ足の先を見ていたオレは顔を上げ、声がした方に視線を向ける。
あぁ、あいつか。
注目を集めているのは、つい最近この動物園に来たばかりのホワイトタイガーだった。
ホワイトタイガーはガラスの前に張り付いて、前足でガラスを掻いている。
「かわいい〜」
「肉球触りた〜い」
はっ。
思わず失笑が漏れた。
どんなに可愛く見えたって、ホワイトタイガーは肉食で、お前らみたいな細腕でねじ伏せられる猫とは違うんだよ。
「ずっとこっち見てるよ」
「目が綺麗だね〜」
目が綺麗ねぇ。
それは、まだ動物園に入ったばかりだからだ。
2〜3ヶ月もすれば野生を忘れ、餌を与えられることが当たり前になるだろう。
そうなったらもう、瞳が輝くことは無い。
澄んだ瞳で見つめるのは、お前らを獲物として認識している証拠だよ。
「見て!ライオンさんだよ」
ホワイトタイガーに向けていた目を正面に向けた。
こちとらとっくに野生を忘れ、濁り切っているであろう目を。
「あ!ほら、こっち見てるよ。バイバーイってしてあげて」
母親らしき人間が、まだ言葉も話さないような子供の腕を取って振っている。
左右に揺れる子供の腕は、白くて柔らかそうで実に美味そうだ。
子供はじっとこちらを見ている。
その瞳の、何と澄んでいることか。
もしや、オレを獲物と認識して…?
思わず、ソワソワと前足を組み替える。
ゴクリ、と喉が鳴った。
終わり
7/30/2024, 5:21:38 PM