MWの二次創作

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未知の交差点



 ーー不思議な夢を見た。

 俺は、見知らぬ都会街をあたかも生まれ育った街かのように歩いていた。目的地は決まってる。駅だ。私は駅から電車に乗り、バイトに向かう途中なのだ。
 なんのバイトだっけ。ああ、そう。アパレルショップの店員だ。
 私はバスで十分かかる駅まで、今歩いている。歩くのが好きで、特に早朝の澄んだ空気が心地好くて癒される。都会にいたって、山の上ほどではないが、早朝の排気ガスを余り含んでいない澄んだ空気は良い。
 色んな人とすれ違った。今日は平日だから、制服やスーツ姿の人々が目立つ。
 車道をUberEATSの配達員が乗った自転車が賭けて行く。引越し業者のトラックも通った。廃品回収の軽トラも見かけた。外国製の車も見かけ、なんだか得した気分になった。
 私は、見知らぬ都会の街をあたかも生まれ育った街かのように歩いていた。
「美園さん」
 不意に背後から声をかけられた。振り返ると小柄でメガネをかけた男性が私を見て微笑んでいた。
「ああーー桂木さん。今から仕事?」
「うん」
 彼は高校生の頃の同級生だ。たまに駅までの道すがらに会う。そしていつも駅まで一緒に行くのだ。職場の方面は真反対だから、改札口まで。
 彼は小学校の非常勤教師として働いている。そろそろ文化祭だね、なんて話をしながら、二人並んで駅に向かう。
 見知らぬ街。見知らぬ店。見知らぬ家並み。見知らぬ交差点。
 その交差点は無人だった。
 信号待ちをしている人はおろか、先程まで頻繁に行き交っていた車の一台もない。
 隣を見ると、今の今まで話していた彼がいなくなっている。
 怖くなかった。この瞬間、私はこれが夢だと気付いたのだ。
「だって」
 試しに声を出してみる。やはり、耳に返ってくる声は、生まれてからずっと聞き続けている自分の声ではない。
 私の声より低く、太い。
「私はーー体は女性だよ」
 交差点の向こう、ガラス張りの店に、私の姿が映っている。青いジャンパーを羽織った男性だ。
 男性になりたいとは願うけれど、決して成れない理想の姿が映っている。
「美園くん」
 振り返ると、ガラスに映っていなかった木村怜の姿があった。
「これは夢なんだよ」
「……知ってる」
 一瞥すると、怜は消えた。
 未知の交差点は、相変わらず俺以外の人がいない。
「胸糞の悪い夢だ」
 舌打ち混じりに夢を吐き捨てた。

10/11/2025, 11:22:24 PM