七瀬奈々

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 どうやら国の北部では異例の大雪が降っているらしく、地域担当の代表から珍しい救助要請が出された。従来の除雪装置が追いつかず、小さな町では家屋が埋まっているところもあるらしい。年始の最中で割ける人員は少ないため、せめて大通りと広場だけでも除雪して欲しいとの話だ。

 中心街からの交通路で既に嫌な予感はしていた。要請があった場所に着くと、視界の一面が雪。この様子だとこの町の市場は悲惨なことになっているだろう。

「端末に送ったデータを読んだ? 例年通りなら大丈夫だったんだ。バザールの周りは毎年特に気を付けて対策しているけどこれは完全に想定外。もう誰でもいいから助けて欲しい」

 普段は気が強く高慢な態度の担当者もお手上げの様子だった。早くから作業していたのか、頬や鼻の頭が真っ赤になっていた。帽子に積もった雪を払ってやると「遊びじゃないんだけど!」と怒られたが、声にはいつもの生意気さや覇気がない。

 ……それにしても、「誰でもいい」と言って派遣されたのが、手の空いていた子供や温暖な地域出身者ばかりなのは流石に上の采配ミスとしか思えない。

「兄ちゃん見て! 白い!」
「すごい! これが雪……」

 南から来た兄弟は初めて見る一面の雪景色に気を取られ作業どころじゃない。

「雪だるま作ろうよ。君は頭担当ね」
「じゃあぼくは足作るから」

 連れてきた友人(だとこちらは思っている人)たちもいい歳して大はしゃぎしている。

「ねえ、こんな奴らを寄越すなんて、上層部は一体何してるの?」
「来る途中で見たけど、あっちもあっちで修羅場だったから許してあげて……」
「はあ……ちょっと君たち、遊びに来てるんじゃないでしょ!」

 怒号をよそにマフラーを巻き直す。今日は長い一日になりそうだ。



お題:雪

1/8/2024, 6:46:17 AM