わをん

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『君に会いたくて』

推しに会いに行くと決めた。健康と身なりに気を遣わない生活を続けてきたのでマイナスをゼロに近づけることから始める。まずはラジオ体操。次にウォーキング、そしてランニングへ。その過程で体は食べ物で構成されるとわかってきたので間食を減らして朝昼晩決めた時間に三食取り、プロテインも飲むようになった。睡眠も大事だ。夜明け近くまで起きていたのを8時間睡眠確保のために寝る時間を逆算できるようになった。
動画サイトにはメイク初心者に向けた指南動画がたくさんある。スキンケアから始まり眉毛のカット、顔そり、メイクの順番、落とし方もしっかり学んだ。この顔にはどんな色やスタイルが合っているのかを考える中で服にも同じことが当てはまると気づき、手持ちの服をごっそり入れ替えた。
マイナスからややプラスにはなったのではないかと自分で思えるようになったけれど、それでも推しに会うのには勇気がいる。やっぱり自分にはまだ早いのではと逃げの言い訳をしたくなってきたところにスマートフォンから通知が来た。今まさに行こうとしているイベント会場を背景に推しが笑顔で映っている画像がSNSに投稿されたのだ。きょうも推しが尊い。推しに会いに行くと決めたときの気持ちを思い出す。
「推しを見ずに死ねるか」
無気力が極まって自分は誰の役にも立っていないという思いに駆られて消えてしまいたくなったときがある。自分の中の悔いを探したときに出てきた言葉がそれだった。今の自分はあの頃に比べて格段に良くなっている。それは自分ががんばったおかげであり、推しがいたからできたことだ。よしと気合いを入れて立ち上がり、玄関へと向かう。推しが待ってくれている。

1/20/2024, 12:28:10 AM