「なーにやってんのっ。」
何かがぼくの頭にコツンと置かれる。
振り向けば、たまに現れては仲良くしてくれるあのおねーちゃんだ。
名前はさえって言ってたかな。
でも、おねーちゃん呼びをしなさい。となぜか誇らしげに頬を緩ませた顔で、ぼくに命令したんだ。
「飴あげるからー、ほーら、暗い顔しない。」
硬さの正体は棒付キャンディだった。
「…ありがとう。」
おずおずと差し出す手に倍以上の力で押し付けてくる。
てこずりながらも包みを開け、口に入れる。おねーちゃんと会える時にしか味わえないお菓子。
心がゆるりと解ける甘さ。
隣にいるおねーちゃんは夕方のオレンジ色を眺めている。
「もうすぐ暗くなるからうちに帰りなね。」
自分もギラギラしたネイルの手でキャンディの棒を持ちながら言う。
「うん。でもまだあめぜんぶたべてない。」
「そうだけどそうじゃないでしょ。…あの家に帰れなんて、アタシも軽率だった。ごめんね。」
ふるふると首を振るぼくの頭に、今度は暖かさが触れる。
「またここに来なよ。アタシもたまに来るからさ。」
だるっとしたジャージにはそぐわない様な眩しい笑顔を向けるおねーちゃん。
噛み締める様に頷く。
飴を噛みたくなる気持ちを抑えて、あとちょっと、あとちょっとだけここに居させて。
12/2/2023, 7:02:01 PM