そらまめ

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「命が燃え尽きるまで」

俺はこの国の姫君を守る騎士だ。自分の仕事に誇りを持ち、命に代えても姫をお守りすることを誓っている。
姫は少々おてんばだが、優しく美しい素晴らしいお方だ。俺はそんな姫を守れることが心の底から嬉しい。
危険な任務で大怪我をした時、姫はわざわざお見舞いに来てくださった。整った顔を心配そうに歪めていて、姫にそんな顔をさせてしまったのがふがいなかった。本当は体中に激痛が走っていたが、俺は強がって笑って見せた。

「心配しないでください、姫。姫を守れて良かったです」

「でも、酷い怪我だわ。もうこんな無茶なことしないでよ」

「気をつけますが、私は姫を守ることが仕事なのです。自分の命を気にしていたら、姫の命を守ることなどできません」

俺がそう告げると、姫は一瞬ひどく悲しそうな顔をした。姫は優しい。俺の命も大切にしてくれる。でも、そんな人だから俺は姫になら命をかけてもいいと思えるんだ。
俺はこの命が燃え尽きるまで、俺の全てを姫に捧げよう。姫が笑っていることが俺の幸せなのだから。

だがこの忙しくも幸せな日々は、長くは続かなかった。小さなこの国は大臣の裏切りにあい、今にも滅びようとしていた。城は占拠された。王と王妃は暗殺された。俺は姫だけは必ずお守りしようとこっそりと城から連れ出した。敵にバレないように地味な服を身にまとった姫は青い顔をしていたが、気丈に歩いていた。
もう少しで城下町を出るという時、俺と姫は敵に囲まれてしまった。その数は数十人。普通に戦えばまず勝ち目は無い。俺も姫も殺されてしまうだろう。なぜバレてしまったのか。もっと気をつけていればバレることは無かったかもしれない。後悔がおそってくるが、俺は唇を強くかみしめて気持ちを切り替える。大切なのは姫をお守りすること。姫に生きていてもらうこと。

「姫、私が奴らをひきつけます。その隙にどうかお逃げ下さい」

そういいながら剣を構える。死んでも姫を守る。それが俺の使命なのだ。

「だめよ……そんなことしたらいくら貴方でも殺されるわ!」

今にも涙がこぼれおちそうに瞳をふるわせる姫に、俺は安心させるように微笑んだ。

「逃げてください、姫。俺はこの命にかえても姫をお守りしたいんです。逃げて、生き延びて、そして笑顔で暮らしてください」

姫への言葉を敵は嘲り笑う。

「ハハハ、そんなことさせないぜ。お前もお姫さまも、まとめて地獄に送ってやるよ!」

「地獄に行くのは貴様らだ」

俺は目線を姫から敵に移した。

「お願いです姫、逃げてください。俺がその道を開きます!」

言うや敵に斬りかかった。斬れると思った時、敵が違う剣によって斬られて倒れる。
俺は信じられない気持ちで剣の持ち主を見た。

「ひ、姫……?」

剣を持っていたのは姫だった。おてんば姫で時々剣の練習をしていることは知っていたが、まさかこんな危険な時に剣を握るだなんて。俺は構わず姫を逃がそうとしたが、出来なかった。俺を真っ直ぐに見つめる姫の瞳は涙に濡れていたが、絶対に一人では逃げないという強い意志が宿っていたのだ。

「命をかけて守るだなんて言わないで。貴方が私の命を大切に思ってくれるように、私も貴方の命を大切に思っているの。二人で生きて逃げ延びるのよ」

そんな夢みたいなこと、出来るのだろうか。だが隙なく剣を構える姫を見ていると、勇気が湧いてきてできる気がしてきた。

「ええ、きっと二人で生き延びましょう」

俺は覚悟を決めて、姫の前で守る姿勢から姫と背中合わせに位置を変えた。

「敵は20人程。腕がたつ者もいるようですが、殆どは新人レベルです。冷静でいれば勝てない相手ではありません」

「了解。さあ、行くわよ!」

姫の号令で敵に向かって駆け出した。また姫と共に暮らせる日を夢みて。

9/15/2023, 9:38:05 AM