すべて物語のつもりです

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 地獄とは、わたしの世界だった。とても苦しくて、息が詰まって、気が付けば泣いている。逃げ出そうとしても、すぐに鬼に捕まってまた引き戻される。死にたいと思うことさえ許されない。それが、わたしの世界だった。だったのに。
 彼女が救ってくれた。どうしようもないわたしに、手を差し伸べてくれた。地獄から天国へ、彼女がわたしを導いてくれた。でも、わたしは彼女を信じられなかった。彼女は天使の皮を被った鬼なのだと決めつけた。
 彼女の細い腕も笑顔も温かい言葉も、ひねくれたわたしの前では輝いて見えなかった。
 わたしはずっと地獄で暮らしていた。傷つくこと、泣き叫ぶこと、絶望することはわたしの当たり前だった。
 天国ではみんな優しくしてくれる。柔らかい眼差し、澄んだ言葉、穏やかな息遣い。
 そのどれもが、わたしには合わなくて、気味が悪かった。

5/27/2023, 10:38:23 AM