人々は戦争を繰り返す。それが一番早いからだ。武力を行使すれば、どちらが強いかすぐに決められる。この世は弱肉強食だ。たらたらと何年も争うのはお互いが同レベルだからだ。それなのに手を取り合おうとせずに優劣を付けたがるからだ。
俺達は他国の領土を奪い、先住民族を服従させたり虐殺させたりした。どんな手でも、それが祖国の為ならばなんでもやる。植民地に住む人々を動員し、倫理を捨て去り武器を振るう。首都では戦車の煩い音がただでさえ少ない睡眠を妨げていた。国民も徴兵され、今やどこを見ても戦火が盛つていた。だが戦況は良いものではない。死体に躓くことも増えた。正に地獄と言うべきだろう。
指揮官の作戦は失敗続きだ。敵国によつて潰される。この国はもう駄目だ。直感的に、軍の者は思う。然し祖国の為生きなければならない。この帝国が負けるなど国民は微塵も思つていなかつた。情報の統制がされていた。都合の悪いことはいつだつて隠されるものだ。
日毎に俺の周りからは、人が消えていつた。親友も亡くなつた。どうやら人の命は平等らしい。家族が待つ者も恋人が待つ者も友が待つ者も誰にも待たれぬ者も、どの国の者も皆等しく命を散らした。
俺も大切なものを全て失くした。俺の宝はもう戻つてこない。だが此の国には振る白旗すら用意されていなかった。
数日後、親友の家族から手紙が届いた。綴られた言葉の数々。きっと俺の他にもこんな手紙を貰った奴が居るんだろう。生き残ってしまった人間が。震えた文字と涙の跡を、俺は
二十一作目「涙の跡」
7/27/2025, 1:50:31 AM