ミミッキュ

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"声が聞こえる"

「………ん…。あ、れ…?俺、いつの間に寝て…?」
 確か、店番を頼まれて…それで……。駄目だ、その先が思い出せない。
 一先ず辺りを見渡してちょっとでも自分の身に何が起きたのか知ろうと顔を上げて周りを見るが、見通しが悪く何も分からない。自分の数メートル先しか見渡す事ができない。
「これは、霧…か?」
 この見通しの悪さは霧なのだろう。霧が辺りを包み込んでいる様だが、ここまで濃い霧は見た事が無く、少し混乱する。霧が出るのなら天気予報で言われている筈だ。それに、ここまで濃い霧ならば《濃霧注意報》とか言う筈だ。そもそも、俺がいたのは店の中だ。距離的に棚とか壁とか見える筈なのに、何も見えない。手を彷徨わせても、なんの感触も無くただ虚空を撫でているだけ。
 ある程度状況が分かった。ここは下手に動かない方がいいだろう。方法は1つ。
「助けを……」
 ポケットに手を伸ばそうとするが、はっ、と気付き、伸ばしかけた腕を止める。助けを呼ぼうにもここがどこだか分からないし、そもそも連絡を取ろうにも携帯は店の奥に置いてきたし…。一体どうすればいいんだ…?
「た…が………た…がさん…大我さん!!」
 考えていると、霧の奥、遠くの方から俺の名前を呼ぶ複数の声がした。足音も、複数人聞こえる。足音が近付くにつれ、声がはっきり聞こえる。
「みん、な…?」
 姿は霧のせいでぼんやりと人影が認識できる程度だが、声で悠達だと気付いた。ほっ、と安堵すると、皆の足音が突然止んだ。
「何だ?一体何が起き…」
『やっと来たか』

 俺の言葉に食い入る様に、霧の奥、皆とは別の方向から別の声が聞こえる。
 何だ、この声…?
 その声は、俺の声によく似ていた。けれど、俺の声じゃない。発したのは俺じゃない。恐怖を感じ、身を強ばらせ、声がした方に顔を向ける。
『待ちくたびれたよ』
 声の主はそう言いながら、ツカツカ、と足音を鳴らし近付いて来て、霧の奥から姿を現す。
『なぁ?』
 俯きながら近付いてきて、足を止めると、すっ、と顔を少し上げて座り込む俺に視線を送ってくる。
「……はっ?」
 思わず息を飲み、驚きの声を漏らす。目の前に現れた人物に、目を大きく見開いて驚く。驚きと恐怖の感情が、心の中で渦巻いて体を蝕んでいく。

『…《俺》』
 それは、声も容姿も俺によく似た《何か》だった。

9/22/2023, 12:19:38 PM