市役所を出たら空が暗くなっていた。駅までの道を辿りながら、親切な人だったなと思い返す。ただでさえ複雑極まりない手続きを、なんとかこなしてやるかという気持ちがちょっとだけ出てくる。
三橋と名乗った窓口の女性は、四つ葉の形のピアスをしていた。同じモチーフを好んだ誰かが否応なく目に浮かぶ。二年経って思い返しても結構キツい言葉たちが、胸の奥にまた火を熾す。
エメラルド色に煌めく幸せの象徴が、形の良い耳を飾るところを思い出し、立ち止まってぎゅっと目を閉じた。
いっそ嫌いになれたらいいのに。小さく息を吐いてから、明るい地下鉄の階段をくだる。
仕方ないね。まだこんなにも好きなんだから。どうしようもない焰を、もう少しだけくすぶらせていよう。
『消えない焰』
10/28/2025, 8:35:09 AM