PASSION ―声が聞こえる―
25時。
明日に備えて早く寝ないと、と焦れば焦るほど、私の眼は開き、肩は小刻みに震え、寒気が襲ってくる。
バドミントン部に入ってから、初めての大会。
ずば抜けた反射神経も、強い腕の力も、戦略的にプレーする明晰さも、私は持っていない。
こんなので勝てるだろうか?
やる前から、分かっている。
諦めちゃいけない、なんて、勝利を予定されている幸運な誰かの綺麗事に過ぎない。
私は幸運じゃないから―。
所詮、平凡な私だから―。
「何言ってんの」
え?
何か聞こえた。
「絶望だわ。俺の持ち主こんな奴なん?」
誰?
私の頭の中に響いてくる声。
私、とうとうおかしくなった。
「俺だよ。お前のラケット。」
…やっぱりおかしくなったようだ。精神科に行ったほうが良いだろうか?
「バカが。俺だって言葉くらい話す。」
何言ってるの?
「いつもお前の汗まみれの手に握られ、時には体育館の床に削られ、時にはくるくる回され。俺はお前に1日24時間振り回されてるんだよ。そこまでしてお前に尽くしてやってんのによ、なんだよ大会前になってその弱気は。」
なんだろう。
目頭が熱くなる―。
「バドミントンってのはな、まあどのスポーツも共通だが、気が大事なんだよ。勝つって信じてる奴が勝つ。負けるって怯えてる奴が負ける。」
わかってる。わかってる。
でも、私は弱い。すべてのことにおいて弱い。
「ったく。ふざけんなよ―」
その声は小さく笑った。
「お前頑張ってただろ」
頑張ってた……?
「そういうこと言うな。俺がついてる。
好きなだけ俺を使え。どんなシャトルも受けてや
る。気だけは誰にも負けんなよ」
声は聞こえなくなった。
気づけば眠っていた。
嘘。
信じられない。
私が優勝なんて―。
9/22/2022, 12:51:55 PM