KURO

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変わらない景色。
外では子供の元気な声が聞こえてくる,
「もうそんな時間か…」
静かな部屋を僕の声だけが響く。
あたりまえが変わってしまったのはいつからだろう…。
数年前,親友を守るために失ったこの足は名誉の負傷と言えるだろうか?
怪我を負い,横たわる僕を見て顔を青ざめながら去っていった親友はどうしているのだろうか,あの事故以来,親友が僕の前に現れることはなかった,きっとこの先もそうだろう。
カラカラカラ
誰かが扉を開ける音がする,母さんだろうか,
「着替えを持ってきてくれた,の…えっ?」
ほほえみながら扉の方見るが訪れた人物を見た瞬間その笑みはスっと消えた。
「…久しぶり」
あの時より幾分か背が高くなり,大人びた容姿と変わっていたが,確かに親友だった。
二人の間を沈黙の時間が流れる,先に口を開いたのは親友の方だった。
「…大丈夫だったか?」
”…大丈夫だったか?”彼は何を言っているのだろう,足が無いのが見えていないのだろうか?
そんな事を考え,顔を顰める僕を見て彼は俯き”違うよな”と小さくつぶやけば
「俺,お前に言いたいことがあるんだ…,あの時俺を助けてくれてありがとう…それとお前を見捨てるように逃げてしまってすまなかった…」
深々と頭をさげる彼を見,僕の中の怒りは消えた。
今まで,灰色だった世界にようやく色がついたような気持ちになった。
僕の顔を暖かいモノが垂れ落ちる,見ればそれは僕の涙だった。
そうか、僕は…彼からありがとうって感謝されたかったんだな,そうすれば少なくとも彼を助けたことに後悔せずにすむから…。
声をあげ泣く僕の背中を親友は静かにさすっていた。
―数週間後―
僕は長い療養期間を経て退院する。
数年ぶりの外は太陽がサンサンと照らし,窓から見ていた限られた外の世界を体全身で感じることができた。
病院から出たすぐ先には親友いや,恋人が花束を持って待っている。
あの後,親友はよく見舞いに訪れ,いろいろな話をしてくれた。そして,退院することが決まった日…,告白されたのだ。
答えはもちろんYES,病院に頼み1日だけ外泊許可をもらい,恋人として行った彼の家で迎えた朝日はいつもより眩しく見えた。
不幸な事故から数年,親友を守る代償に足を失い,先の見えない未来に怯える日々を送っていたが,今はこうして大切な人ができ,未来にも希望を持てるようになった。
…僕は今,とても幸せだ。

9/26/2023, 4:31:29 AM