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宇宙の中心で友情を叫ぶ

「...ここをこうして、こっちをつなげて...」
 頑張って組み立ててきたネコの言葉翻訳機があと少しで完成する。前回、3ヶ月かけて試作品はネコの言葉を人間の言葉ではなく、イヌの言葉に翻訳してしまった。前々回の試作品の完成には1年を費やしたが、ネコの言葉を聞くと勝手に会話しだしてしまった。これも失敗だ。
「よし、完成だ...!」
 これまでなんども失敗作をつくってきたからか、今回の試作品の完成には1ヶ月しかかからなかった。
「おーい、ギコくん!新しい試作品が完成したぞ!今からネコを探しに行こう。」
 助手のギコくんは寝室から出てきて言った。
「カッツ博士、もう夜の11時ですよ?明日にしませんか?」
「何を言っている!どうせ今回も失敗すると思っているんだろう。今回はいつも以上に自信作なんだ。さあ、ネコを探しに港へ出かけるぞ、ギコくん。」
「前回も前々回も、そのまた前の試作品のときも『ついにこのときがきたぞ!』『今回こそは成功するに違いない!』って言って失敗してきたじゃないですかー...」
「今回こそは自信があるんだ!さあ、行くぞ!」
「はあ、仕方ないですね...」
そうして私の助手のギコくんは港へ向かった。港には漁のおこぼれを求めてたくさんのネコが集まるのだ。夜中でもたくさんの野良ネコがいるに違いない。
「着いたぞ、ネコちゃんはどこかにゃ〜」
「博士、様子がおかしいですよ。ネコが全く見当たりません。」
 いつもならそこら中にいるはずの猫がいない。もう日付を回ろうとしている時間だ。流石のネコも眠りについているのだろうか。
「これはおかしい。ギコくん、もう少し奥へ進もう。私はネコたちが崖下の洞窟で寝ているのを知っているんだ。」
 港を海岸沿いに進むと波に削られた岩場があり、その先には波に侵食されてできた崖があるのだ。そこには長い時間をかけてできた洞窟がある。洞窟といっても10メートルくらい進めば行き止まりの、小さなほらあなのようなものだ。
「カッツ博士〜、どうして僕を先に行かせ...ってなんですかあれ!?」
「な、なんだあれは、人か...?」
 ネコを探そうと入った洞窟の奥は、洞窟とは思えないほど明るかった。その光の中心にはヒトのようなものが横たわっている。そう"ヒトのような"だ。
 その肌はくすんだ緑色で、手足はヒトとは思えないほど痩せ細っていた。耳があるはずのところには何もなく、代わりといっては変だが、髪の毛のないつるつるした頭から綺麗な円錐の形をした5cmくらいのツノのようなものが2本生えている。
「これは、間違いない。宇宙人だ。」
「う、ううう宇宙人!?!?に、逃げましょうよ、起きたら殺されるかもしれません!!」
「大きな声を出すな、ギコくん!宇宙人が起きてしまうだろう!!」
 案の定だった。不気味に輝く光の中心に横たわる緑色の物体が私たちの声に反応して動き出した。宇宙人はヒトと同じように2本の足で立つと、私たちの方を向いた。
「¥々>9々|+*23」
 何かを語りかけているようだが、全く理解できない。どうやら地球人である私たちヒトとは異なる言語を話すようだ。
「ひいいいい!博士、僕はもう限界ですうぅぅ!!」
そういってギコくんは洞窟を出て走り去ってしまった。
「おい、待つんだ!」
 私は助手の背中に向かって叫んだが、一足遅かったようだ。彼の背中は夜の闇に消え、ここには私と緑色の宇宙人だけが残った。ああ、私の人生はここで終わりなのか。そう思ったその時だった。
「キミタチハワタシノテキカ?」
 私のポケットから突然機械のような声が聞こえて来たのである。そう、ついさっき私が完成させたネコの言葉翻訳機である。どうやら今回もネコの言葉翻訳機を作ることには失敗したようだが、偶然にもこの宇宙人の言葉を翻訳する機械を作ってしまったらしい。
「いいえ、あなたの敵ではありません。私はあなたの友達になりたいのです。」
 ダメでもともとだ。私は翻訳機に向かって話しかけた。
「<〆°82○・〒:々2・€2〆|^^^||=+%」
 もはや言葉としても認識できない、意味不明な音の羅列が私の試作品から発せられた。
「☆☆%°>〆〆〆〆×○===」
 どうやら宇宙人には伝わったらしい。細長い手を振り回しながら答えてくれた。
「ソレハウレシイ。ワタシトキミハトモダチダ。」
 喜んでくれたようだ。それにしても細長い手を無造作に振り回して喜ぶ姿は、ヒトのそれとは随分と違って君が悪い。そんなことを思った矢先だった。
「ヒュンッ」
 風が吹き抜けるような音がしたかと思うと、宇宙人は私の目の前から消えていた。振り返って見上げると、暗い夜空に光る星たちに混じって、不気味に光る緑色の光がどんどんと遠ざかっていくのが見えた。おそらく自分の住む地に帰るのだろう。
 それから私は、ネコを探していたことも忘れて研究所への帰路についた。正直に言って何が起こったのか、全く理解が追いついていなかった。
 研究所に着き、玄関を開けるとギコくんが飛び出して来た。
「博士、生きてたんですか!!てっきり僕が逃げたから死んでしまったのかと...」
 いつもの私なら私を置いて逃げた恩知らずな助手を叱りつけていただろう。そして宇宙人の言葉を翻訳することに成功したことを自慢げに報告していたに違いない。でも私は疲れ切っていた。非現実的な事態を理解できずにオーバーヒートした脳が、早く眠りにつきたいと悲鳴をあげている。
「あ、ああ。なんとか生きている。今日は休ませてくれ。すっかり疲れ切ってしまったようだ。」
 私はそう言ってまっすぐ寝床に向かった。

「ドーンッ!ガラガラガラ...」
 なんだろう、大きな音がする気がする。
「ワーッ!キャー!助けてくれー!」
 なんだ?夢か?研究所の前で交通事故でも起こっているのか?こっちは宇宙人との出会いで疲れ切っているんだ。もう少し寝かせてくれてもいいじゃないか。そうは言ってもここまで騒ぎになっていては寝付けるわけもない。疲れ切った身体を奮い立たせて上半身を起こした。
「な、なんだこれは...」
 目に飛び込んできたのは、何台もの空飛ぶ円盤と、そこから放たれる光線、そして数えきれないほどの緑色の生物。そう、昨夜の宇宙人が地球を侵略しにきていたのだ。
「ど、どうなっているんだ、や、やはり悪夢を見ているのだろう。」
 そうして強く頬をつねってみるが、目は覚めない。本当に現実だと言うのか...?
 でもひとつおかしなことがある。宇宙人の侵略によって360度全てが焦土とかしている。しか私が寝ているベッドとその周りは全くの無傷だ、と思っていたのだがついに私の前に一体の宇宙人が現れた。
「==<〒€=7+・%+・:=・¥÷×」
「ヤットオキタネ、トモダチ。」
 どうやら翻訳機をポケットにしまったまま寝てしまっていたらしい。宇宙人の言葉を翻訳した機械音が聞こえてくる。
「%々+:×+++・〒・2・8…・+・€」
「キミハテキジャナイシ、ワタシタチノコトバヲワカルカラ、コロサナイデオイタヨ、トモダチ。」
 この宇宙人は昨夜洞窟で遭遇した宇宙人らしい。彼の友達である私は攻撃しないでくれていたようだ。
「+^÷%7:+2・+:°÷〆6:×=%・〒€○・2÷々8÷552々」
「キミイガイヲスベテコロシタラ、キミヲツレテワタシタチノホシへカエル。コノホシハバクハツシテナクナルカラネ。」
 私は彼らの星へ連れていかれるらしい。あまりの衝撃的な光景と展開を飲み込めない私の口からは十分な言葉が出なかった。
「そ、そうか。ありがとう、友人。」
「+==々|<☆€×・%3€<」
 それでも翻訳機はきちんと翻訳してくれる。宇宙人は昨夜と同じように手を振り回して喜んでいる。


 私は彼らの宇宙船に乗せられて地球を脱出するまで気を失っていた。そしてまるで当たり前かのように彼らの星へ辿り着いたのである。
 
 彼らの星へ辿り着いてから、もう数年が経った。彼らの話によれば地球は完全に爆発してなくなり、その影響で太陽系もろともブラックホールになってしまったらしい。この星の名前は"☆○♪→>>"、ヒトの言葉で「友情」という意味だ。
 この星の人々は友情をとても大切にする。私はあの夜、あそこで出会った緑の生物と友達になったおかげで命を救われたのだ。


ああ、友達は命と同じくらい大切なんだなあ。
そんなことを身をもって体感した、そういうお話である。


*宇宙人語に特に規則などはありません。ごめんなさい。

10/25/2023, 11:33:28 AM