夜半に吹き荒れた雷雨はようやく収まりはじめた。
今、私の耳を揺らすのは、木々を伝って落ちる柔らかい雨音だけだ。私は森の動物達と一緒に洞窟へ飛び込み、風と雷鳴に怯えながら朝を待っていたのだ。
稲妻が空を駆けるたび、動物達の瞳は暗闇の中でギラリと光る。暴れる者は一匹もおらず、狭い空間で静かに肩を寄せ合った。朝がきて明るくなればここから出よう。
これは、嵐の森を逃げ惑う哀れな迷子の物語。
…と。そう思って。思って強く、思い込んでみた。
メルヘンチックな現実逃避に成功した私は、死の恐怖もドラマチックに克服しつつある。
ここは森の洞窟で、ロッカーの中じゃない。
これは森の動物で、着ぐるみの制服じゃない。
あの光は雷光で、殺人鬼の掲げたライトじゃない。
あのうるさいのは雷鳴で、銃声なんかじゃない。
これは雨音で、したたる血溜まりなんかない。
朝になったらここから出よう。
朝になったらここから出たい。
朝になったらここから出よう。
…ああ、あの光は朝焼けかな。
今ならここを逃げ出せるかな。
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「柔らかい雨」
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所感:
好きなタイプの素敵なお題だったというのに、好きすぎて駄目な方向にしか話を考えられませんでした。夢見たまんまバッドエンドです。
11/7/2022, 1:40:24 PM