作家志望の高校生

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「おにいちゃ、だっこ!」
ちぎりパンのような短い腕が、懸命に俺の方へ伸ばされる。ふっくらした体を抱き上げれば、自分より高い体温がじわりと伝わってきた。
この寒い中を半袖短パンで、関節も耳も頬も真っ赤にしてニコニコと無邪気に笑っている。苺が透けた大福そっくりの頬をつつけば指が沈み込んだ。
「むぇ。んふふ〜……ほっぺもちもち?」
むいむいと自分の頬を揉み込む姿があまりにも可愛くて、よりしっかりと腕に抱え込んでしまった。
「うん、もちもち。寒いでしょ?早く帰ろ?」
ね?と首を傾げて顔を覗き込むが、まだ遊びたいのかもにょもにょと何か言っている。仕方ないかと、飴玉を小さな口に押し込んでご機嫌になった隙に連れ帰った。
やはり外ではしゃぎ回って疲れていたのか、家に戻って毛布に包んでやるとすぐに寝入ってしまった。こくりこくりと傾く頭が真ん丸で、それを見る度きゅんきゅんと何とも言えない感情が湧き上がってきた。
上がりっぱなしの口角をそのままにしながら、すぅすぅと可愛らしい寝息を立てる弟を抱え込んで彼の脱ぎ散らかされた服を畳む。青色の小さな園服は、弟の元気いっぱいな遊び方についていけなかったのか所々ほつれてしまっていた。
「ん〜……ついでに縫っとこ。」
家は母子家庭で、母さんはバリキャリの溌剌とした人だ。俺達のことをきちんと愛してくれているし、真っすぐに育ててくれてはいるが、家にいる時間はやはり少ない。俺が家事全般を習得するのは必然にも近かった。
鼻歌を歌いながらほつれを直して、ついでに名前のワッペンを貼り直してハンガーに掛けておく。そうこうしていると、弟が起きたようだ。何か探しているように、キョロキョロと眠い目を擦りながら辺りを見回している。
「あれ……おにいちゃ、ぼくのえんぷく……」
「そこにあるよ。」
ハンガーを指さすと、彼はぽてぽてとそちらへ走っていった。
数分して、彼が何かを握りしめて笑顔で俺に近付いてくる。屈んで目線を合わせてやると、小さな手が眼前に突き出された。
「あげる!」
差し出されたのは、小さな青い花。名前も何も分からないし、長いこと園服のポケットに入れられていたのか少し萎れてしまっている。
「わ、いいの?ありがとう!」
けれど、その小さく可憐な花が、そして何より、俺にそれを差し出す弟が愛しくて愛しくて、世界中のどんな豪奢な花束より綺麗に見えた。

小さな青い花の押し花があしらわれた栞を撫でながら、ふと物思いに耽っていた。もう随分昔のことのはずなのに、今でも愛しくて仕方ない。
ガチャリとドアの開く音と、声変わりして低くなった弟の声がする。
「おかえり〜。」
今日も今日とて、まだまだ俺にとって小さな弟は愛しいし、この家はいつでも眩しかった。

テーマ:tiny love

10/30/2025, 7:50:22 AM