【終わりにしよう】
「終わりにしよう」
つんと澄んだ、すこし低めの声。大好きな声。
「もう、終わりにしようよ。こんなこと」
それが、なんだろう。一つも聞きのがしたくない声がつむぐ言葉が、耳をすべっていく。だって。
「やっぱ、お遊びでやることじゃないからさ。ね?」
こんなこと。こんなこと言われるはずがない。お遊びじゃないのに。本気なのに。
……それとも、ああ、彼女は。お遊びだったのか。
「そう、だね」
うれしかった。大好きな彼女が、自分のことを好きだと言ってくれて。
うれしかった。大好きな彼女が、自分と肌を重ねることを良しとしてくれて。
うれしかった。だってこんなこと、ふつうじゃないと思っていたから。
うれしかった。幸せだった。
私だけが。
そんなことにも、気づけないほど。
考えてみれば、当たり前だ。私が大好きな人が私を好きでいてくれたなんて、どれほどの確率だろう。
ましてふつうではない関係性で。
ああ、やっぱり。人並みではない私が人並みの幸せをつかもうなんて。
「終わりにしよう」
7/15/2023, 10:21:16 PM