Ryu

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足元に野良犬が寄ってきた。
私の足の匂いをクンクンと嗅いで、つまらなそうに去っていく。
風に揺れる木陰で、あの人が来てくれるのを、首を長くして待っている。
気が遠くなるほど。

喧嘩をしたのはいつのことだったか。
あんなに怒りに震えてこの場所に来てから、もうどれくらい時が経つのだろう。
怒りに任せて、この木陰で首を吊った。
あれからずっと、この木陰で揺れている。

今になって、あの人の浮気は、自分の勘違いだったんじゃないかとか、話し合ってもう一度やり直すことも出来たんじゃないかとか、都合のいいことばかり考えるけれど、私はもう、この木陰で揺れ続けることしか出来ない。

さっきの野良犬がまた戻ってきて、私を吊り下げてくれている木にオシッコをした。
おいお前、私とこの木は一心同体なんだ。
マーキングするのはやめてくれ。
願わくば、あの人に、今の私のこの状況を伝えてくれないか。
あの人に、謝罪する機会をくれないか。

…首吊り死体に謝罪されてもな。
これじゃ、土下座をすることも出来ない。
上から目線で、ゆらゆらと揺れながら。
おいワンコ、今の私の姿はどんな感じだ?
あの人に愛されていた頃の私と、どう違う?
あの人への想いは、何ひとつ変わっていないのに。

今日も日が暮れてきた。
風も止んで、私の体の揺れも治まった。
野良犬には、ねぐらがあるのだろうか。姿を消した。
さて今夜も、一人反省会を始めよう。
誰にも邪魔されず、気が遠くなるほどの静けさの中で。
誰かが、この木と私の繋がりを断ち切ってくれる、その日まで。

7/17/2025, 11:37:09 PM