腹有詩書氣自華

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花風は、何を運んでくるのだろうか。

花の香り?
木々のざわめき?
それとも、どこかの誰かの小さなつぶやき?

三月、学校が早く終わった午後、少し足を伸ばして川辺の土手に向かった。春の陽気に包まれながら、本を開く。ふと、やわらかな風が吹き抜けた。

遠くから誰かの笑い声が届いた。
ランドセルを背負ったこどもたちがいる。傷一つない鮮やかなそれを嬉嬉として自慢しあっている。

また、少し離れたところからは、少し大人び始めた声色が微かながらに聞こえた。つよい風がその続きをさらっていく。その後は全くとして聞こえなかった。でも、お互いが向き合いながら手を握っている制服の影がちらりと見えた。

もう一度風が吹くと、桜の花びらがふわりと本のページに舞い落ちる。指でそっと拾い上げると、ふわりとした温もりが指先に残った。あたたかくなった空気が、変わり目を静かに教えてくれるようだった。


風は、目に見えないけれど、確かにそこにあるものを運んでくる。

子どもたちの無邪気な笑い声
勇気を振り絞った愛しい人への言葉
頬をかすめる新たな出逢いの香り

手のひらで受け止めた花びらの感触も、ページの隅に落ちた影も、全部、風が運んできたささやかな贈り物なのかもしれない。

そして、ふと思う。
自分の言葉も、こんな風に誰かに届くだろうか。
ふわりと風に乗って、そっと誰かの心をくすぐるような、そんな文章が書けたらいいな。

今日も風は、どこかから何かを運んでくる。
その中に、少しだけ幸せが混じっていたら嬉しいな。


───────題.風が運ぶもの────

3/6/2025, 10:58:05 AM