灰燼

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「いったい、どこで何をしてる。」
指輪を握りしめながら、誰に言うともない独り言が無機質な部屋の中に落ちていった。

あの日、目が覚めたとき目の前には指輪だけが置かれていた。俺があいつに贈った指輪だった。お前を守るための最善を選んだつもりだった。でも結局は俺達の独りよがりだったんだ。お前を失いたくはなかった。
ひと目でもいいから無事な姿を見せてくれ。それだけで、もう、十分だから。

目が覚めたら私の傍で倒れているあなたがいた。あのとき居たはずの他の二人の姿は見当たらなかった。眠りに落ちる前の記憶を思い出し、やるせない思いと、それでも燃え尽きることのない愛おしさが胸の中を支配した。わかってる。私の病気を治すためだったって。でも、約束したのに。最後はみんな一緒だって。どうして私に相談してくれなかったの。裏切られたのに恨みきれない私はどうしようもなく彼を、彼らを愛してしまっていて。
でも、どうしても赦すことができなくて。

訴えるような痛みを見ないふりをして、贈ってくれた指輪をまだ目覚めていない彼の前に置いた。

彼に背を向け歩き出す。私の後を追うように、地面に雫が落ちていった。

6/27/2024, 3:07:42 AM