朗々

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ギラつくネオンの蛍光色が、忙しなく交通網を駆けずり回る足跡を照らしている。クーラーは効かないくせどうやってこんなデカい音を、と変に世論を慮るほど、街中に鳴り響いている「きっと君は来ない」だとか「君が好き」、「I love you」「I Need You」なんて浮つくセリフの数々が嫌に耳に残るような冬の夜。僕はひどく息を切らしていて、さながら『あわてんぼうのサンタクロース』のようだと微笑した。
正直言って、僕は慢性的な運動不足だ。現在1.5キロ。タクシーで体力を温存していたくせに、もう足はだるいし、重いし、吸い込む空気は氷のようで喉は焼けるように痛いし、なんなら全身の節々がひきつりのような異常を訴えている。銀行から金を卸してタクシーを呼ぼうかな、と思っていたその時、ピコンと、控えめな機械音がポケットをくすぐった。

『早く来ないとケーキ全部たべちゃうよ』

くちばしをひくりと吊り上げる。当たり障りのない絵柄をした「向かってます」の文字が浮かんだスタンプを送り、スマホを握りしめたまま、道の端を走りだした。コンクリートをぐんと蹴り上げる。
おかしいな、子供の頃思い浮かべたサンタクロースなんて存在は、ワンホールケーキ全部食べる、なんて嘘を付く女の子の元へ、必死に冷や汗垂らして向かうような存在ではなかったはずなのだけれども。


_まあでも別に、いいか。
君からのラインで、間違いなく僕はひたすらに舞い上がっているなんてこと、どうせ誰も知らないし。

でもほんとうに食ってたら困るな、と思って、走っている途中にあったコンビニでチョコケーキを2つ買った。あと、ちいさなサンタクロースの砂糖菓子も。


君からのLINE

9/15/2024, 4:41:51 PM