松乃かぐら

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紫陽花を煮ている。殺してやる、と思ったから。

朝起きたら、あいつは消えていた。
『他に大切な人ができました』なんて他人行儀なメモだけ残して出ていったのだ。

手に力が入り、心の奥底でなにかが燃えているような感覚。

途端、家を飛び出し駅に向かって駆けていた。
初夏のじめじめした空気が纏わりついて頬を掠めていく。

何気なく会話して歩いた散歩道、行きつけのコンビニ、待ち合わせ場所のバス停。
思い出が次々と視界を流れていく。

ふいに堪えきれなくなって、
追いかけるのをやめた。
去年告白してくれた公園にも、あいつはいなかった。あいつの代わりに青い紫陽花が一面に広がっていた。涙みたいだった。

悔しくて、辛くて、まだあいつが好きな自分に腹が立った。

だから紫陽花を煮ている。
恋心を殺してやる、と思ったから。

テーマ【あじさい】

6/14/2023, 8:58:28 AM