かたいなか

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一難去ってまた一難。今年度もこの、ブラックに限りなく近いグレー企業の、金額に見合ってるんだか全然足りないんだか分からない春夏秋冬が始まった。
「名前通りのオツボネ様」、ウチの部署の新人ちゃんをいじめ倒して、仕事のヤバいミスを私に押し付けた尾壺根係長は、3月31日をもって別部署へ。
事実上の左遷。数年一緒の先輩が言ってた。

で。オツボネのかわりに来た新係長が後増利だ。
オツボネもオツボネだったけど、こいつも評判がすごく悪い。ムズい仕事は下に全部丸投げで、名前どおり上司に「ゴマスリ」ばかり、って話しか聞かない。
スゴイよ。ヤバい上司のヤバい理由名字で分かるよ。便利だねウチの職場。

「次の係長ゴマスリだってさ……」
昼休憩。休憩室でお弁当突っつきながらの話題は、当然ゴマスリのことだった。
「私、そろそろガチで転職考えようかな……」

対する先輩は相変わらず平坦で、淡々。
「それも手だ。止めはしない」
スープジャーの中の、雑炊みたいでちょっとおいしそうなオートミールをすくいながら、
「給料でもメンタルでも、趣味でも。大切なものが維持できないなら、破綻する前に、離れたほうが良い」
まぁ、人材が消耗品と同等の企業が多い中で、良い職に出会うのは難しいだろうけれど。応援はする。
そう付け足す表情には、ちょっと諦めのサムシングが隠れていそうだった。

「大切なものねぇー……」
「少し、考えてみるといい。何を優先したい?」
「お金でしょ、メンタルでしょ、休日と人間関係」
「万民の願いだな。この職場で損なわれてるのは?」
「メンタルと休日と、『仕事に見合った』お金」

「人間関係は良いのか」
「先輩居るからいい」
「何故私なんだ。そもそも私ひとりで人間関係など」
「せんぱい、いるから、いい」
「……んん……?」

私みたいな捻くれ者の、一体どこが許容範囲なんだ。
大きく頭を傾ける先輩は、その頭の中でめちゃくちゃ色々考え中のようで、オートミールのスプーンが止まったままになってる。
「それ言ったら先輩居れば大抵大丈夫かも」
なんてポツリ言って、お弁当から顔を上げると、私の言葉がハト&豆鉄砲だったらしい先輩が、パックリ口を開けて「は?」の顔だった。

4/3/2023, 4:22:26 AM