あにの川流れ

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#クリスマスの過ごし方


 「え、贈りもの……ですか?」
 「あのね、うん。きみに。ぼくがね、がんばったの」

 社の濡れ縁に続く階段。その二段目に腰かけ、一段目に足を。ふたりは隅から隅まで全く同じ造形をしていた。
 違いといえば衣服。
 一方は綺羅を。
 一方はなんてことない、普段着を。
 ぱちん、ぱちん、と目をまばたかせた綺羅の子は目線を落とす。渡された無垢材の木箱。そこに梅結びの水引が飾られて。
 あまりにも大事そうに両手で持って、見つめたままだから。「あけて?」と普段着の子が笑った。
 しゅるしゅる……ぱかり。

 「わぁ」
 「んふ、卵白とねお砂糖でつくったんだよ。あのね、くっきーっていうの。お料理のご本にね、外つ國のおかし、ってかいてあったの」
 「くっきー……」
 「……あのね、早くたべないと湿気るんだよ」
 「えッ、早く言ってくださいよ!」

 木箱の底に丁寧に敷かれた懐紙。その上に、胡粉のような、ほのかな黄みと赤みを感じさせる不思議な白色がちょんちょんちょん、と三つ。それぞれ角がぴょこん。ぽったりとした、雫型――メレンゲクッキー。
 かさかさとした感触のそれは思ったよりも軽い。指でつまみ、口の中へ。
 すると、じゅあぁ~……とたまゆらに。
 バッと手を口許に。

 「きっ、きえちゃいました……」
 「びっくりした? あのね、おいしい?」
 「あ、あまいです。とってもおいしい……」
 「んふ、大成功!」
 「大成功?」
 「うん。あのね、くりすます、っていうんだよ。外つ國ではね、冬至のことをそうやって呼ぶの」
 「ハイカラですね」
 「それでね、くりすますにはね、ぷれぜんと、するんだよ。贈りもの。きみにね、あまーいあまーい、ぷれぜんと。ぼくの気持ち。いつもみんなのために、がんばってくれてるから」

 ぽかん、とした綺羅の子。手許のプレゼントと、目の前の片割れを見て。
 耀う目許に、大きな水たまり。
 ぼとっと落ちて装束に染みが。
 それからふにゃりと笑った。年相応の、片割れによく似た朗らかな笑み。

 「ありがとうございます、とってもうれしい。ほんとうに、とっても、とっても……」
 「どういたしまして。あのね、きみがうれしいとね、ぼくもうれしいんだよ」
 「ふふ……、お返しをしないと。風呂敷は持ってきてくれましたか?」
 「うん。お気に入りのやつ」
 「いいですね! 本当は、お社のものを持ち帰ってはいけないんですけど」

 竹編みのかご。
 そこには、五つの柚子。ごろん、と揺れるそれら。水に潜らせたのか、水滴がきらきらと光っている。「どうしたの、これ」と聞けば、「ここのお庭に生っているんです」と。
 自分でとって、きれいに水にさらしたんですよ、と誇らしげ。

 「わたくしからの下賜ということで、許してもらいましょう」
 「かし?」
 「くりすますぷれぜんと、です」
 「んふ、うれしい! くりすますぷれぜんと!」

 くふくふ、とふたりの笑い声。
 綺羅の子が普段着の子の両手をとって、膝の上に置いた。あたたかい、血脈がじわりじわりと互いの手のひらに伝わって、ほっと安心。
 じっくりじっくり、こころに沁み込んでゆく。
 先にまばたきをしたのは、綺羅の子だった。ぎゅ、と普段着の子の手を握って。

 「どうか、健やかで、ひととせの、けがれが祓えますように」
 「きみのしあわせは、ぼくが持ってくるからね」

 浅縹の夕凍み。
 その下で、透明な冬に、ふたりは春が立つような笑みを咲かせた。

12/26/2022, 5:41:19 AM