はるさめ

Open App

ぴくりとも動かなくなった貴方を置いて、私は駆け出した。
後ろは振り返れなかった。振り返ってしまったらきっと、貴方に縋ってしまうと思ったから。

逃げろと、君だけは生きろと貴方は言った。

だから私は何としてでも生き延びなければならない。刺すような胸の痛みも、貴方を置いていく罪悪感も、とめどなく頬を濡らす涙も全て、あの館を包む炎の中に閉じ込めて。

これから先貴方は私の隣にはいない。
次に会えるのも何百年先か分からない。
もし会えても、今世のように気づけないかもしれない。

でも、それでも。


また、どこかで巡り会えたら。



その時は、





…その時は。

10/3/2023, 4:27:13 PM