春一番

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「掃いても掃いても落ち葉ってなくならないよねえ」
「下にあるのはいいとして、上から降ってこないでほしい…」 

私と蒼原は親に命令…いや、頼まれて祖母の家の広い裏庭をせっせと掃いていた。祖母の裏庭には大きな一本木があり、夏は庭全体が日陰になり涼しくていいのだが、秋は今のように大量の落ち葉を落とす。

「見て蒼原。私達が掃いた落ち葉が風に乗ってワルツを踊っているよ」
「不毛だっ…!」

私は藁箒に軽く体重を載せながらひらひら楽しそうに舞う葉を目で追う。不規則に動くこの感じがなんともいえずたまらない。私がそんなふうに暢気に考えていると、蒼原ははあはあ言いながらそれでも真面目に落ち葉を掃き続けている。

「これ、この袋に収まり切ると思う?」

私はこれに落ち葉をしこたま入れるように、と母に渡されたリビングテーブルが入りそうなくらい大きな袋を顎で指した。

「これぱんぱんに入れたら終わっていいってことでしょ、だったらがんばる」
「蒼原…。体力はないけど根性はあるよねえ…」
「青雲もがんばってよ」
「もちろんだとも」

私もまた掃いても掃いても終わらない落ち葉掃きを再開した。しかし、まあ、本当に多いこと。その時蒼原がぽつりと漏らした。

「全部燃やしたい…」

その言葉を聞いて私ははっ、とした。

「それ、いいね」
「はあっ!?」
「蒼原、私準備してくるから適当に落ち葉を集めておいておくれ」
「待って、待って、待って、何がなんだか分からないんだけど、せめて青雲、何をするか説明を…」

狼狽える蒼原をおいて私は祖母の家に走った。そして必要なものをてきぱきと揃えてく。5分たたずで準備を終えて急いで蒼原の元へと戻った。

「お待たせ!」
「…そうだね、待ったよ」

恨みがましく私を見上げる蒼原だが、その足元には律儀に落ち葉の山ができていた。

「お、いい感じだねえ、ありがとう!」
「まあ、これくらい…というか何をするつもりなの?」

私はへっへっへっと得意げに用意して来たものを並べる。

「新聞紙にマッチ、アルミホイルに包まれた何か…」
「これにはさつまいもと濡れた新聞紙が包まれてます。あとはバケツと水を沢山!!」
「…焼き芋か!」
「当たり!」

私はなれた手付きで新聞紙を丸めてマッチで火をつける。するとするすると落ち葉にも火がついた。

「今日はあまり風が強くなくてよかったよ」
「間違いないね」

さっきまで元気のなかった蒼原の顔が少し明るくなっていた。私は満足してそこらへんにあった木の枝を使いながらさつまいもを包んだアルミホイルを焚き火の中に押し込んでいく。

パチパチとゆっくり燃える落ち葉を二人で眺める。何を話すわけでもないが、ゆったりと流れるこの時間が心地よく感じた。蒼原もそうなのか、珍しく鼻歌が聞こえてくる。そろそろ焼き上がりかな、と二人で木の枝を使い、さつまいもをころころ転がして出した。

「まだ熱いかな」
「出したばっかりだから多分」

蒼原とかがんで、冷めるまで転がす。そして頃合いになったらアルミホイルを剥いた。湯気が広がりさつまいもの焼けたいい香りが広がった。

「ところどころ焦げてるねえ」
「火加減もくそもあったもんじゃないからね」

そう言いながら蒼原は美味しそうに焼き芋にかぶりついている。私もつられて一口食べる。甘くて、ちょっと苦い味が口に広がる。普段は特段なにも思わない焼き芋も、こうして自分たちで焼いて、そして蒼原と一緒に食べると美味しく感じた。

「たまにはこういうのもいいね」
「たしかにね」

水をかけて、しなしなになった落ち葉の山からまだ、薄く煙が上がっていた。

3/5/2023, 12:38:10 PM