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希望は人の数だけある(テーマ たった一つの希望)



 ある戦争に負けそうな王国が、適当な若者を選んで言った。
「君だけが希望だ。たった一つの希望だ。勇者として国のために敵国の王を倒してくれ。」

 僅かな支度金とともに、敵国に送り出す。

 若者は何人かの敵兵を殺したが、あっさり敵国に殺された。



 王はしばらくして別の若者を選び、また言った。
「先日の勇者は死んでしまった。君だけが残された希望だ。」

 また、僅かな支度金とともに、敵国に送り出す。

 若者は何人かの敵兵を殺したが、やはり、あっさり敵国に殺された。

 何人もの若者を選んで敵国に送ったが、そのうち若者は選んで国を出る前にいなくなるようになった。

 どうも、勇者を送り込まれることを嫌った敵国がスパイを潜入させ、選ばれて王城から送り出された直後を狙って暗殺するようになったらしい。



 国から無謀な命令を受けた若者たちのたった一つの希望。

 それは、逃げること。

 暗殺の機会に敵国に降伏し、そのまま亡命するようになった。

 死にたくない若者たちは、国を捨てる以外にできることがなくなってしまったのだ。

 やがて、捨て駒(勇者)にされるのが嫌なのか、王に呼び出された若者は病気になったり、行方をくらますことが多くなった。



 王は宰相に言った。

「我が国は一体どうしたらいいのか。」

 宰相は王に答えた。

「彼らは時間稼ぎです。彼らが稼いでくれた貴重な時間で、我が国は時間を稼ぐことができ、敵国は間諜を送り込んでまで『勇者』を警戒するようになりました。ダ大丈夫。計画通りです。」

 王は安心した。

「さすがだ。お主がいてくれることだけが、ワシの唯一の希望だ。」



 敵国の侵攻が迫ったある日、王は宰相に謀反を起こされ、捉えられてしまった。

「なぜだ。ワシはお前に全幅の信頼をおいて、地位も名誉も金も、可能な限りのものを与えたというのに。」

 宰相は答えた。

「この国はもう終わりです。私にとって、王の首を手土産に降伏することが、たった一つの希望なのです。」

3/3/2024, 4:48:25 AM